宮城 <私の元年>新時代に誓う(1)/不利は覚悟、大舞台へ

河北新報オンラインニュース  2019年01月01日


◎聴覚障害のある短距離走者 佐々木琢磨さん(25)

=宮城県柴田町=


 新しい時代が春に始まる。少し特別な年明けに、きりりとした気持ちで

飛躍を誓う人たちがいる。大舞台への挑戦、古里の再生、祖国との橋渡し。

思い思いの夢を目指してスタートラインに立つ。

短距離走の練習に励む佐々木さん。聴覚障害の壁を乗り越え、活躍を誓う=角田市陸上競技場


 無音の中で全身を躍動させ、風を切る。ひたすら前だけを見据えて。

昨年末の角田市陸上競技場。仙台大(柴田町)の職員佐々木琢磨さん(25)

が練習に訪れ、トラックを駆け抜けた。


  生まれつき耳が聞こえない。情熱を傾けるのは短距離走。

2017年7月、トルコであった聴覚障害者の国際スポーツ大会デフリンピックに出場し、

400メートルリレーで頂点に立った。


  青森県五戸町出身。八戸ろう学校(青森県八戸市)の中学部で陸上を始めた。

盛岡ろう学校(現盛岡聴覚支援学校、盛岡市)の高等部でも競技に打ち込み、

デフリンピックの存在を知った。 


 「国際大会に出たい」と体育系の仙台大に進学。速く走る方法を日々考え抜き、

鍛錬に励んだ。卒業後も職員として競技を続け、リレーで「聴覚障害者世界一」

の栄光をつかんだ。 


 次の大きな目標は健常者と競う五輪への出場だ。聴覚障害者は平衡感覚の面で

不利とされる。佐々木さんは100メートル10秒75の日本ろう記録保持者。

それでも9秒台でしのぎを削る世界最高峰への道のりは険しい。


  デフリンピックの後、佐々木さんはスランプに陥った。努力してもタイムが

伸びない時期が続く。「聴覚障害者の大会で頑張ればいい」と夢を諦めかけた。


  光明が見えたのは昨年3月。仙台大教授の名取英二さん(60)の

指導を本格的に受け始めた。名取さんは七十七銀行陸上部の監督を長く務めたベ

テラン指導者。動きを細かく観察し、身ぶり手ぶりで熱心に助言してくれた。


  佐々木さんが「進化する喜びを感じる。記録が良くなる手応えがある」と

信頼を寄せれば、名取さんは「とにかく負けず嫌い。できるまで挑戦をやめない」

と姿勢を評価する。 


 佐々木さんは盛岡ろう学校時代をよく思い出す。大会で好成績を収めた時には、

わが事のように喜んだ仲間たちがまぶたに浮かぶ。


  「(国内トップ級の)山県亮太選手や桐生祥秀選手に勝つ。聴覚障害者の希望の星になる」。

新時代を全力疾走する覚悟を決めた。

応援してくれる人たちの笑顔を見るために。 

(大河原支局・柏葉竜)  


[メモ]17年のデフリンピックで陸上100メートルは7位に終わった。今年3月はエストニアで開かれる第1回世界ろう室内陸上競技大会に出場し、個人種目の世界一も目指す。仙台大では週1回、学生や教職員に手話を教える「手話カフェ」を開いている。




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