難聴の高校生、武術で活躍

神戸新聞NEXT   2018/12/6


難聴の高校生、武術で活躍 

ネット動画で上達、全国優勝も

難聴と向き合いながら武術を極める井上欽太さん=神戸市東灘区田中町5


 生まれつきの難聴がある兵庫県立尼崎工業高校2年の井上欽太さん(17)

=西宮市=が武道の世界で活躍している。

取り組むのは、武術太極拳の「南拳」。


 井上さんは見てまねることが得意で、インターネットの動画を見て

プロの動きを身に付けて上達した。

「南拳のおかげで、難聴でもやれるんだと自信になった」と話し、

全国大会で優勝するなど輝かしい成績を収めている。(小谷千穂)  


 2人兄弟の長男として生まれた井上さんは、3歳になっても言葉を発さず、

難聴と診断された。最初に手話を覚え、かすかに聞こえる左耳に補聴器を付けて特訓し、

会話ができるようになった。


 ただ、大人数や雑音の多い場所では聞き取りに不安が残るという。  

県立こばと聴覚特別支援学校の幼稚部を出た後、地元の香櫨園小学校、

浜脇中学校に進んだ。


 元々動き回るのが好きだったため、小学1年から地域のサッカークラブに所属した。

個人技は伸ばしたが、グラウンドで仲間の声が聞こえずチームプレーが難しく、

コーチの指示通りにプレーできないなど、試合では苦しんだという。


  武術の道に進んだのは、小学4年で体験した小中学生向けカンフー体操教室がきっかけ。

先に太極拳を習っていた母の芳美さん(47)が誘った。


 全身を動かし、型を覚えて披露する武術に、井上さんは「1人で向き合えて、

自分の好きなように動ける。

かっこいいし自分に合っている」と魅力を感じたという。  


 小学6年で武術団体「SCWP(スコープ)」(神戸市東灘区)に入門。

武術太極拳には太極拳と南拳、長拳の3種類がある。


 選んだ南拳は、最も力強い技が必要とされるが、持ち合わせた

運動神経と惜しみない練習量でめきめき成長した。


  昨年7月、年齢制限のない全日本選手権の男子規定難度南拳で優勝し、

昨年度の県スポーツ優秀選手賞を受けた。


 今年8月には大阪府八尾市であった国際大会で2位に入るなど活躍の場を広げ、

西日本ジュニア指定強化選手に選ばれた。


 スコープの品川仁志代表は「集中力がすごい。基本動作の質も高く、

世界と勝負できる選手」と絶賛する。


  指導者が見せる手本や世界のトップ選手の動画を研究し、

再現することを重視し、「『見ること』が僕にとって一番大事」と話す井上さん。

分からないことはとことん聞き返し、相手の意図を理解しようとする努力も怠らない。

将来は「南拳の歴史に名を残したい」と胸を張った。




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