毎日新聞
2019年3月18日
言葉が思うように出ない吃音(きつおん)を理由にいじめを受けたとされる
福井県敦賀市立中学校3年の男子生徒について、毎日新聞が福井面で記事化したところ、
ウェブサイトを読んだ吃音の当事者らから励ましの声が寄せられ、
支援の手も差し伸べられた。
学校や市教委の対策が後手に回る中、中学を卒業する生徒は
新たな一歩を踏み出そうとしている。
【高橋一隆】
いじめに遭ったという生徒は卒業証書を手に新たな一歩を踏み出そうとしている=福井県敦賀市で、高橋一隆撮影
吃音に悩む人は同じ一音を繰り返したり、会話に詰まったりする傾向があり、
「うまく話せないかもしれない」と不安を覚えてしまう。
人口の1%程度はこの傾向があるとされ、原因は解明されておらず、
対応する医療機関も少ない。
生徒は幼少期から吃音で、3年に進級した昨春、自己紹介で周囲から嘲笑され、
部活動で他の生徒や教員からも無視されるなどした。
学校を一時休みがちになり、両親には
「学校に行きたいけれど、自然に涙がこぼれてくる」
と話していた。
昨年11月、毎日新聞がこの問題を報じると、中学校長は
「配慮が足りなかった」と陳謝したが、
生徒の両親は
「学校側から『受験が近く、他の生徒たちもぴりぴりしている』と言われ、改善する意思が感じられなかった」
と振り返る。
市教委も報告を受けていたが、報道後にようやく複数の教員で生徒に対応するようになった。
手を差し伸べたのがウェブサイトを読んだ吃音の当事者たちだった。
全国約800人でつくるNPO法人「全国言友会連絡協議会」(東京)は
昨年12月、生徒の支援体制を整えるよう文部科学省に要望書を提出。
自助グループ「どもり癖をなおす雄弁会」は今年1月に生徒を活動場所の神戸市に招いた。
生徒は同じ悩みのある会社員ら10人と一緒に、平仮名をゆっくりと読む練習をした。
「どもり癖をなおす雄弁会」は発音練習の場も設けており、生徒も指導を受けた=神戸市で、高橋一隆撮影
毎日新聞と当事者団体が2016年に実施した全国アンケートによると、
回答者80人のうち50人が「吃音が原因で、学校や職場でいじめや差別を受けた」と答えた。
学習障害や注意欠陥多動性障害(ADHD)の子どもは、教育環境の整備が進む一方で、
吃音を「あがり症」程度に考えてしまう人は多い。
雄弁会会員で京都府立聾(ろう)学校の島浦順介教諭(38)は
「周囲に受け入れてもらえないはがゆさから吃音を隠そうとして、余計に治すことができなくなるケースも多い」
と話す。
雄弁会のメンバーから
「苦しんでいるのは一人じゃない。希望を持とう」
と言われた生徒は、自信をつけたようだ。
今月12日に出席した卒業式では、呼ばれた名前に堂々とした声で
「はい」と答え、卒業証書を受け取った。
「中学でいじめがなくなったとは思えなかったけれど、前を向いて進みたい」。
進学を決めた高校でも、胸を張って生きるつもりだ。
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