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2019.3.16
難聴の原因はいくつかあるが、加齢による難聴(加齢性難聴)には治療法がなく、
補聴器で聞こえを補うことがすすめられる。
補聴器装用を考えるときに知っておきたい、
補聴器の選び方や購入時の注意点などを聞いた。
加齢に伴う聴力の低下は誰にでも起こるが、程度は個人差が大きい。
加齢性難聴のリスク要因について、北里大学医療衛生学部教授の佐野肇医師はこう話す。
北里大学医療衛生学部教授・佐野肇医師(本人提供)
「糖尿病や動脈硬化など、血管の障害が関係する病気の人は難聴が早く進む傾向があるようです。ほかにストレスや遺伝的要因が関係するという説もあります」
加齢性難聴の多くは両耳に起こり、高い音から聞こえにくくなる傾向がある。
防衛医科大学校病院耳鼻咽喉科の水足邦雄医師は、その特徴についてこう話す。
防衛医科大学校病院耳鼻咽喉科・水足邦雄医師(本人提供)
「高齢者の聞こえ方として、小さな音が聞こえにくくなることに加え、音の聞き分けが悪くなることがあります。そのため、聞こえてはいるけど言葉がはっきりせず、会話が聞き取りにくくなるのです」
難聴は、聞こえの程度により軽度、中等度、高度、重度に分類され、
一般的には中等度難聴(40デジベル以上)になると補聴器の装用をすすめられる。
しかし、聞こえ方や不便の感じ方は人によって異なる。
加齢性難聴は徐々に進行するため、気づきにくい特徴もある。
「家族が困って受診をすすめても本人は困っていないこともあります。ただ、実は、困っていることを自覚していないだけのこともあり、補聴器をつけて、聞こえていなかったことを自覚する人もいます」
(水足医師)
補聴器について、「眼鏡店などで購入するもの」と考える人も多いが、
補聴器は法制度により定められた医療機器及び補装具で、
購入前には耳鼻咽喉科を受診し、日本耳鼻咽喉科学会が認定する
補聴器相談医の診察を受けることが望ましい。
「まずは、診察や聴力検査をして難聴かどうかの正確な診断をし、難聴である場合は原因や程度を調べることが必要です。原因によっては治療できる難聴もあるため、治療が可能か不可能かも判断した上で、補聴器の装用が有効と考えられる場合には試聴や購入の相談をします」
(佐野医師)
認定補聴器専門店がおすすめ
補聴器を購入するには、病院の補聴器外来を受診する方法と、
補聴器販売店に行く方法がある。
いずれにしても最初に耳鼻咽喉科にかかる。
補聴器外来では、提携している補聴器販売業者が病院に来て、
診察・検査から試聴・購入まで病院内でできることもある。
■聴力とニーズに合う補聴器を選ぶ
病院に補聴器外来がない場合は、診療情報提供書を発行してもらい補聴器販売店に行く。
診療情報提供書とは、補聴器相談医が補聴器販売店にあてた、
補聴器購入のために必要な情報をまとめた書類だ。
日本耳鼻咽喉科学会では、補聴器に関する専門知識と技能を持つ
認定補聴器技能者がいる認定補聴器専門店に行くことをすすめる。
補聴器の装用においては、
「自分の聴力に合う補聴器を選ぶこと」と
「聴力に合わせて適切に調整された補聴器を使うこと」
が重要だと両医師は話す。
補聴器は、形態や出力(音を大きくする力)などによりいくつかの種類があり、
難聴の程度により使用できる補聴器は異なる。
「例えば、軽度難聴に適した補聴器を、高度・重度難聴の人が使用しても、十分に音を大きくできないために聞こえが改善されないことがあります。難聴の程度に合った補聴器を選ぶことが必要です」
(佐野医師)
とはいえ、補聴器のメーカーは複数あり価格にも幅があるため、
選ぶ際に迷う人も多いだろう。
メーカーによる違いについては、両医師とも
「一般的なメーカーの補聴器であれば、技術力の差はない」
という。
「近年、補聴器の技術は大きく進歩しています。認定補聴器専門店で販売されている補聴器であれば、性能や患者満足度に大きな差はないと考えていいでしょう」
(水足医師)
価格について、「音を大きくする基本機能に関しては、値段による大きな差はない」
というが、例えば、音を調整する際により細かく設定できる機能や、
雑音やハウリングを抑える機能、スマホと通信できる機能など、
「より快適な聞こえのための付加的な機能」
が価格の差になるという。
■聴力に合わせて調整された補聴器を
どの補聴器が最適かは、実際に使ってみないとわからない。
試聴し、医師や認定補聴器技能者と相談しながら
聴力やニーズに合う補聴器を選ぶことが大切だ。
最初は「うるさい!」
補聴器は、眼鏡のように「つければすぐ見えるようになる」ものとは違う。
まず、聴力に合わせて調整する作業が必要だ。
病院では言語聴覚士が、販売店では認定補聴器技能者が調整をおこなう。
購入前にその補聴器を使って一定の期間トレーニング(試聴)する。
最初に補聴器をつけたとき、「うるさい」と感じる人も多いが、
これは「当たり前」と水足医師はいう。
「ずっと聞こえない状態が続き、静かな状態に慣れている耳や脳に通常の音が入ってきたら、うるさいと感じるのが当たり前です。うるさくてもリハビリだと思って補聴器を使い続け、耳と脳を慣らしていくことが必要なのです」
(水足医師)
慣らすのと同時に、補聴器により適切に聞こえが補えているかを調べることも重要だ。
そのための検査を「補聴器適合検査」という。
「補聴器適合検査は、補聴器の効果を確認するための検査で、補聴器から調整したとおりの音が出ているか、補聴器を使うことで聞こえが改善されているかなどを調べます。試聴の前や途中、終了時などに何度かおこないます」
(佐野医師)
ある程度、補聴器の聞こえに慣れ、効果を実感できたら購入する。
慣れるまでの期間には個人差があり、短くても1~2カ月、長ければ1~2年かかることもある。
補聴器は購入後も定期的に聴力のチェックや機器のメンテナンスが必要で、
病院や販売店とは長くつきあうことになるため、信頼できるところを選びたい。
「むやみに高価な補聴器をすすめたり、試聴を十分させず購入を急がせたりする販売店は要注意です。利用者が何に困っているかを理解し、対応してくれる医師や販売店を選ぶことが大切でしょう」
(水足医師)
◯北里大学医療衛生学部教授 佐野 肇 医師
◯防衛医科大学校病院耳鼻咽喉科 水足邦雄 医師
(文/出村真理子)
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