京都新聞
2019年3月9日
「冷蔵庫のドアが開いている時やガスこんろの消し忘れを
知らせる音が、高くて聞こえない」。
京都新聞社の双方向型報道「読者に応える」に、
長岡京市のパート従業員の女性(50)がそんな困りごとを寄せた。
加齢で高い音が聞き取りにくくなるというが、
家庭用機器の報知音でもそうしたことは起きるのか。調べてみた。
■加齢で高い周波数が聞き取りにくく
女性宅を訪ねると、台所に1月に買ったという真新しい冷蔵庫があった。
試しにドアを開け放つと、1分ほどで「ピーピー」という報知音が鳴った。
だが、女性は聞き取れないという。
「同居する76歳の義母も聞こえないそうです」
女性はもともと高音域で難聴の傾向があり、ほかにも
ガスこんろや電子レンジなど、報知音が聞こえない機器は複数あるという。
「高齢者には私のように報知音が聞こえない人もいるはず。なんとかならないのでしょうか」
とこぼした。
なぜ高音が聞こえなくなるのか。
耳科学・聴覚医学を専門にする京都府立医科大の坂口博史准教授によると、
人間は耳の奥にある内耳の有毛細胞で音の振動を電気信号に
変えることで音声を認識するが、年を取るにつれ、
高音の周波数を受け持つ有毛細胞ほど欠けやすくなるためという。
60代で8千ヘルツ、70代で4千ヘルツあたりが聞き取りにくくなるが、
「70代以上で2千ヘルツが聞こえにくいことも珍しくない」
(坂口准教授)。
補聴器で音の大きさは改善するが、
高音をはっきり聞こえるようにするのは難しいという。
■JISには対応しているけど
では、家庭用機器の報知音はどのように設定されているのか。
主な国内家電メーカーと、ガス機器を扱う大阪ガスに尋ねた。
報知音の基準には、日本工業規格(JIS)の高齢者や障害者に配慮した設計指針がある。
加齢による聴力変化や実験を踏まえ、基本周波数について
2500ヘルツを超えないことが望ましいと定める。
家電製品協会が策定したガイドラインもあり、
望ましい周波数を2千ヘルツあたりとする。
シャープや東芝ライフスタイル、パナソニック、三菱電機、大阪ガスは、
こうした規格に準拠しているという。
さらに各社は
「音量調整の機能を設けたり、視覚や触覚などの代替手段も併用」(シャープ)、
「冷蔵庫などで音量を選べる機種もある」(パナソニック)、
「音量切り替えや音声ガイダンス追加、二つ以上の周波数成分を持つ複合音の使用」(三菱電機)
など、独自の工夫を挙げる。
一方で、長岡京市の女性は
「携帯電話の着信音のように、音を自分に合わせて変えられればいいのに」
と話す。
実際、JISの指針には
「聴覚障害のある使用者が選択できるよう、製品には報知音の周波数に幾つかの選択肢を設けることが望ましい」
との項目があるが、
「一部製品は報知音を変更できる仕様」(日立製作所)
「ブザー音程を変更できる機種がある」(大阪ガス)
といった回答があった以外、製品で周波数を選べるようにしている例はなかった。
複数の報知音にするとコストがかさむのがネックという。
■IT発展で 「スマホ表示、振動伝達も」
識者はどう見るか。
高齢者に聞き取りやすい公共放送を研究する
千葉工業大の世木秀明准教授は
「一定の周波数の音が同じ大きさで流れていると、聴覚順応と呼ばれる現象で小さく聞こえたり、気にならなくなったりする。報知音を断続音にしたり、メロディーを用いたりすれば効果的かもしれない」
と指摘する。
一方、加齢人間工学を専門にする早稲田大の倉片憲治教授は
「IT技術が発展すれば、家庭用機器から使用者のスマートフォンに信号を送り、音だけでなく、画面表示や振動などで知らせるようにできるのではないか」
と予想する。
メーカーも
「音だけに頼らない伝達方法も含め、さまざまなお客さまに対応できる製品づくりを目指す」
(日立製作所)と機能向上に前向きな姿勢を示す。
家庭用機器が今まで以上に、
だれにとっても使いやすくなることを期待したい。
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