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2019.3.2
ロボット、人工知能などの新しい技術は、
医療分野においても進化をもたらす。
週刊朝日ムック「手術数でわかるいい病院2019」では、
最新の医療機器について取材している。
スマートフォンと直接接続・操作できることで、通話の音声が人工内耳に入ってくるため、騒がしい場所などでもより明瞭に聞き取ることが可能になる(イラスト/今崎和広)
ここでは、「スマホ対応の人工内耳サウンドプロセッサ」と
「人工股関節の手術支援ロボット」を紹介する。
■人工内耳/スマホ対応サウンドプロセッサ
補聴器を装用しても十分に聴力を回復することができない
高度難聴の人に使用される人工内耳。
手術によって皮下に植え込むインプラントや電極、
頭に装着するサウンドプロセッサからなる。
そのサウンドプロセッサに、スマートフォン(以下、スマホ)と
直接接続できる新たな機種が発売された。
人工内耳装用下では、駅や空港など騒がしい場所での会話がしにくく、
とくに電話による通話が困難という課題があった。
人間の耳は、無意識に「自分の聞きたいこと」にフォーカスして
音を聞き分けるが、騒がしい場所では多くの音が混ざり合って
聞きたい音を聞き分けることが困難になる。
新しい機種は、スマホと接続することで、
通話音声が直接人工内耳に送信されるため、
よりクリアな聞き取りが可能になり、騒がしい場所でも
快適に会話をすることができる。
東京大学病院の山岨達也医師はこう話す。
「健聴者は聞きたい音と雑音が同じぐらいの大きさなら9割以上聞き取れますが、人工内耳の人は7割程度しか聞き取れません。雑音に邪魔されず通話音声だけが直接人工内耳に入ってくるのは極めて有効といえます」
スマホを利用した音楽や動画の視聴なども同様に楽しむことができ、
専用のアプリを利用すれば、聞こえの状態を確認したり、
サウンドプロセッサを紛失した際に探したりすることも可能だ。
いまやスマホは人々の生活に欠かせないツールとなり、
高齢者でも使いこなす人は多い。
「人工内耳を入れる方はアクティブな方が多く、スマホを活用してより快適な聞こえを得られることが期待されます」
(山岨医師)
■変形性股関節症/人工股関節の手術支援ロボット
日本初の整形外科分野の手術支援ロボットとして、
17年に薬事承認されたのが「Mako(メイコー)」だ。
変形性股関節症などに対しておこなう人工股関節置換術で用いられる。
Makoのロボティックアーム(左)とナビゲーションシステム(右)(画像提供:日本ストライカー)
人工股関節置換術は、骨盤側の骨を球形に削り、
金属製のカップを入れる。
一方の大腿(だいたい)骨(太ももの骨)側に入れた金属とつなげて、
人工股関節として置換する。
削る位置が不正確だと、脱臼や固定不良、人工関節の摩耗、
破損のリスクが高まる。
外科医の感覚を頼りに骨を削る通常の手術では、精度にばらつきが生じ、
脱臼しないように患者に「正座しないように」などの動作制限を設けるのが一般的だ。
ロボット手術は、現在でも一部の病院で導入されているナビゲーションを
用いた手術を、ロボットが補助して計画どおりに実施するものだ。
ナビゲーションは、術前に取り込んだCT画像などから治療計画を立てる。
術中にモニターに映し出される角度や深さを数値的に
確認しながら進めることができる。
患者の体勢の変化にもリアルタイムで対応する。
Makoは、この治療計画に基づき、正確で安全な手術を可能にする。
術者はアームを持ち、先端のドリルの位置をナビの指示に合わせて骨を削るが、
正しい位置にこなければ削れない機能がついている。
大阪大学大学院の菅野伸彦医師はこう話す。
「治療計画から外れた角度や深さで骨を削ろうとすると、自動でロックがかかるため、ズレたり突き抜けたりする恐れがないのが特徴です。車でいう衝突防止装置が付いているようなものです。また、通常の手術は小さいサイズから始めて何回もドリルを当て球形に削っていきますが、Makoは、位置がぴたりと決まるため、最初から目標のサイズで削ることができ、その作業も1回で済みます」
正確な位置に人工股関節を設置できれば、患者に動作制限をしなくてもよくなる。
通常の手術では医師の経験により精度にばらつきがでるが、
Makoを使えば経験が少ない医師でも同じ正確さで手術できる。
「ただし、ナビどおりに実行するロボットですから、治療計画を適切に
立てられることが前提です」(菅野医師)
今後、ロボット技術の保険加算が追加されれば、導入が進むと期待される。
◯東京大学病院耳鼻咽喉科・頭頸部外科教授 山岨達也医師
◯大阪大学大学院運動器医工学治療学教授 菅野伸彦医師
(文/出村真理子、杉村健)
※週刊朝日ムック「手術数でわかるいい病院2019」から
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