主体的な学びが花開く「学習成果発表会」…順天

読売新聞オンライン  2019.2.22


順天中学校・高等学校(東京都北区)は昨年11月18日、「学習成果発表会」を開催した。文化祭の一環に位置付けられ、高3生を除く全生徒が参加する行事だ。高校生は、海外研修などの経験から世界情勢や歴史、平和などに関する探究学習の成果を発表。中学生は、理科・社会の探究学習や合唱・合奏を披露した。中学生の発表に注目して当日の様子を紹介する。


中2は手話を取り入れた合唱に挑戦

 この日の「学習成果発表会」は、東京都北区王子の複合施設「北とぴあ」の「さくらホール」を会場として開かれた。「さくらホール」は1300人収容の大きさがあるので、生徒たちだけでなく400人弱の保護者も参観に来ていた。


  生徒たちの学習成果発表は10年ほど前までは、文化祭で行われていたが、文化祭のお祭り的な要素が強まってきて学習成果の発表が目立たなくなっていく感があったため、文化祭から切り離し、学習成果発表の場を独立して設けることにした。ただ、場所は分けられても「学習成果発表会」は文化祭の一環であり、例年、文化祭の数日後に開催しているという。

手話とともに披露された中2の合唱


午前中は、中学生による合唱と合奏が披露された。合唱は1年生が混声2部、2年生が混声3部、3年生が混声4部の構成。各学年共通の課題曲「ふるさと」のほか、自由曲として1年が「COSMOS」、2年が「翼をください」、3年が「あなたへ~旅立ちに寄せるメッセージ~」を歌った。3年はこのほか、「エイサーの夜」を合奏し、夏の沖縄修学旅行で体験した舞踊、三線さんしん、エイサーを取り入れたパフォーマンスを見せた。


  いずれもクラス単位ではなく各学年全員によるパフォーマンスなので、人数が多くてダイナミックだ。


 特に注目されたのは、手話を交えて行われた2年生の自由曲「翼をください」の合唱だ。手話を行いながらなので、正確な音程を取ることも簡単ではないが、100人を超える生徒たちが手話の動きをそろえて歌いきると、会場からは大きな拍手が送られた。


  2学年は1学期から手話を学んでいるため、毎年、合唱に取り入れているという。2年1組の豊田麻尋さんは「翼を表すときは手を羽ばたくように動かすとか、動きが意味と合っているものも多くて、思っていたより覚えやすかった」と話した。


「学習成果発表会」の目的について語る片倉敦副校長


 同校は、多様な人々の価値観や考え方を知って、協働できる人間の育成を目指しており、外国人や障害者、幼児やお年寄りたちと交流する機会を積極的に設けている。「総合学習」では手話や点字を学習し、体育の授業ではブラインドウォーク体験を取り入れるなど福祉教育にも力を入れている。片倉敦副校長は「他者に共感できない人は、多様性を認めることができません。共感する力を育てることが大切なのです」と語った。


主体的な調べ学習を探究学習の助走に

午後はいよいよ学習成果の発表だ。歴史や自然などさまざまなテーマを扱い、スライドを使ったプレゼンテーションが行われた。 


 中1では、まず、学年を代表して3組の柴ちえみさんが「私だけの世界地図」と題して発表した。この発表の基になっているのは、自分なりにテーマを決めてオリジナルの世界地図を作るという夏休みの社会科の宿題だ。パンや菓子、鉄道、バレンタインなど、さまざまなテーマの世界地図が集まる中、柴さんが作ったのは歴代のオリンピック開催国の世界地図だった。地図を作るうちに「どうしてアフリカには開催国が少ないのだろう」という疑問が湧き、調べていくと、治安の悪さや資金不足が背景にあることが分かったという。また、9月に実施した静岡県富士宮市でのサマースクールの行程発表も行われた。

「私だけの世界地図」を発表する中1の柴さん


  中2では、代表として2組の6班が後醍醐ごだいご天皇の紹介をメインにした発表を行った。


 これも社会科の課題が基になっている。1学期に授業で鎌倉時代について学び、次に班ごとにその時代の重要人物を1人選んで調べ、9月の鎌倉遠足で、その人にゆかりの地を巡って理解を深める。


  発表では、年表や写真で事実を伝えるだけでなく、後醍醐天皇が隠岐島を脱出する方法をクイズ形式にしたりして会場を飽きさせない工夫もこらしていた。歴史を楽しみながら学んでいることが伝わってきた。2年1組の和田結人君は「教科書や写真でしか知らなかったお寺などを実際に見て、歴史上の出来事がリアルに感じられました。坂が多いことも、実際に歩いてみて初めて分かりました」と話した。 


 こうした調べ学習は、高校で本格的な探究学習に発展していくが、中学生にはまだハードルが高いという。片倉副校長は「1年生はまだ幼いし、最初は調べるという学習レベルでかまわないんです。続けることで主体的に取り組む姿勢が身に付きます」と説明する。学年が進むごとに、課題を単純なものから複雑なものにしていき、生徒が徐々に思考を深められるようにしているのだ。


沖縄修学旅行で学んだ戦争の現実

中3は、代表の4人が7月の沖縄修学旅行について写真や動画を使って発表した。沖縄尚学中学校との交流、「平和学習」、民泊、マリンスポーツ体験など盛りだくさんの内容だった。

沖縄修学旅行で体験した舞踊、三線、エイサーを取り入れた中3の合奏


  発表の後、何人かの生徒に「平和学習」で印象に残ったことを聞いてみた。1組の谷口愛梨さんは「防空壕ごうとして使われていたガマに入らせてもらうとき、中が暗くてみんな入るのを怖がったんです。でも、ガイドの人に『戦時中はみんなここに入りたがったんだよ』と言われてハッとしました」という。同じ1組の森川瑠水るみなさんは「ひめゆり平和祈念資料館で聞いた講話は重い内容で、胸にずっしり来ました。沖縄の人は、戦争の悲惨さが身に染みているんだなと思いました」と話した。


3組の小野澤草太君は「平和祈念公園の石碑に、日本人だけでなく外国人の名前もたくさんあったことが印象に残っています」と話した。「平和祈念公園の訪問は旅行の前半にあって、後半は民泊とか水族館とか楽しいことが多かったから、こういった発表の場がなかったら、戦争について改めて考えることもなかったかもしれません。写真や映像を見直すことで記憶をよみがえらせることができてよかったです」 


 このほか、代表者1人によるニュージーランド短期留学についての英語での発表も行われた。


  沖縄修学旅行について片倉副校長は「4泊5日と体験する時間は短いが、得られる学びは大きい」と語った。多感な年頃の生徒たちはそれぞれの胸に響くものがあったに違いない。  この発表会は同中のオープンスクールを兼ねている。会場で生徒たちの発表を聞きながら、同校への思いを深めた受験希望者や保護者も少なくないだろうと感じた。 


 (文:佐々木志野 写真:中学受験サポート)




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