「人工内耳」が広い年齢層で活用 高齢者では認知症予防に期待

産経ニュース  2017.2.7



 補聴器では十分に会話が聞き取れないなど重度の難聴者を支えるのが

「人工内耳(ないじ)」。

 性能の向上や治療法の進展で、1歳から高齢者まで幅広く使われるようになった。

聴力の回復でコミュニケーションが取れるようになると、認知症予防にも役立つという。

超高齢化社会に向けても普及が期待される。  (坂口至徳) 


 人工内耳は、耳の奥の内耳に障害がある難聴者の「聞こえ」を補助する装置。

内耳にある「蝸牛(かぎゅう)」は、外部から鼓膜などを経て伝わる音声の振動を

電気信号に変換する役割があり、その信号が脳神経に伝わることで音として認識される。


 人工内耳は蝸牛の機能を補強し、国内では昭和60年から導入が始まり、

これまでに約1万人が手術を受けた。

  ただし、補聴器と比べてなじみの薄い人工内耳。

京都市内で1月、現状や課題をテーマにした公開講座が開かれ、

京都大医学部付属病院耳鼻咽喉科・頭頸部外科の山本典生講師が

「生まれつきの難聴者や、加齢性難聴などは早期に手術するほど効果がある」と説明した。


 人工内耳の手術は主に、耳のそばで大声を出しても聞き分けられない

重度難聴の人が対象。

 手術によって、静寂な中で1対1の会話ができる

▽インターホンや電話の着信音など周囲の音が聞こえる

▽声の聞き慣れた家族など知人と電話で話せる-などの効果があるという。 


 「人工内耳は完全に音を再現するというより、視覚でいえば輪郭がわかる程度」と山本氏。

機械的に合成された音のため、意味をはっきり理解するには、手術後も

言葉を聞き分ける訓練などが必要で、「リハビリを続ける本人の強い意志が大切」と指摘した。 


 「コミュニケーション能力が低下する難聴は、認知症のリスクの一つとされている」と山本氏。

「高齢の患者が増えるなか、人工内耳を使うケースは増えていくだろう」と話した。


  一方、わずかでも残る生来の聴力は、「聞こえの質」を高めるうえで重要。

人工内耳の手術では、この聴力の低下が避けられないとされてきたが、それを防ぐ研究も進む。

 

 さらに、特定の遺伝性難聴の患者については遺伝子診断によって、将来的に

人工内耳が必要かどうか判断できるという。


 山本氏は「人工内耳は手術ができる年齢層が広がり、症状に見合った効果が

期待できるようになった」と展望を示した。


■6歳から装着の福井雅弘さん 「機能の研究続けたい」

人工内耳を装着して研究に取り組む福井雅弘さん。「新たな難聴の治療法確立に努めたい」と話す=京都市左京区の京都大医学部


 公開講座では、人工内耳を幼少期から使っている京都大大学院医学研究科修士課程1年の

福井雅弘さん(24)が登壇。

「人工内耳によって人生が百八十度変わった。医学の道に進んだのは、

内耳の研究をしたいと思ったから」と語った。


  福井さんは重度の難聴のため2歳で補聴器をつけ、自身の声が

ほとんど聞こえないなかで発音の訓練を続けた。


 6歳のときに人工内耳の装着手術を受けると、母音や子音の発音を

聞き分けることができ、言葉でのコミュニケーションも取れるようになった。


  その後、「内耳機能を研究したい」との思いから京大大学院医学研究科に入った。

「今の私があるのは人工内耳のおかげ」と福井さん。

 ただし医学の世界では日進月歩の最新情報が必要で、周囲のサポートを受けて研究。


 多人数での会話も、マイクを使って相手の音声を人工内耳に

直接送信できる器械を活用するなど工夫している。

「優れた器械であっても、人の声をしっかり理解するには意欲と努力が必要です」 


 将来的には、内耳に関わる遺伝子と難聴の発症メカニズムの関係を明らかにしたいといい、

「新たな難聴の治療法確立につなげたい」と力を込めた。


【用語解説】

人工内耳

体外装置がマイクで音を拾い、解析して音声の信号を送信し、それを皮膚の下に埋め込んだ体内装置が電気信号に変換する。装置の先端部のリード線は蝸牛に挿入しているため、電気信号を的確に伝えることができる。人工内耳の装着手術は現在、全国108施設で年間約700件が行われている。




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