毎日新聞 2019年1月24日
<二条中・難聴学級50周年>障害のある仲間と地域で学ぶ/上
聞こえる生徒とも交流 名物は全校生徒の手話合唱 /京都
京都市立二条中学校(上京区)に、今年度で50周年を迎えた
特別支援学級「難聴学級」がある。
全学年に1クラスずつ常設する中学校は府内唯一で、現在は計10人が在籍。
普段は各学年の通常学級と同じ階にある専用の教室で学び、体育や
部活動は通常学級の生徒と一緒に行う。
障害のある生徒に配慮された学校の特長と共に、難聴学級の生徒らが
50周年を記念して歴史を振り返る取り組みを紹介する。
【国本ようこ】
記念式典で手話コーラスを披露する二条中の生徒たち
=京都市中京区の市立二条中で、国本ようこ撮影
教壇横のスクリーンに、ナウマンゾウや日本地図が載った教科書が大きく映し出されていた。
昨年12月にあった難聴学級1年の社会科の授業。
「では、『日本列島に住み始めた人々』を読んでください」。
教員が生徒の1人に促すと、その言葉が生徒の手元のタブレットに字幕で表示された。
教室にはカーペットやカーテンが特別に設けられている。
生徒の補聴器や人工内耳が、反響した音や外からの雑音を拾わないようにするためだ。
3人の男子生徒は、静かな教室で集中して授業に取り組んでいた。
難聴学級3年の近藤成(なる)さん(14)は中等度の難聴。
小学校は通常学級に通ったが、「中学になると勉強が難しくなると聞き、
聞こえづらさに配慮のある難聴学級を選んだ」。
母の都さん(40)は「補聴器である程度聞こえる分、支援がない状態で
通常学級に入ると『聞こえづらい』と言いにくいのではないかと思い、
難聴学級に進ませた。大学や就職先など、将来は聞こえる人の中で過ごす。
その際に必要なコミュニケーション力も部活動などの交流で身につけてほしかった」と話す。
難聴学級は1960年、岡山市立内山下小学校(2001年閉校)に
全国で初めて設置された。
府内では66年に上京区の出水小(現二条城北小)に開設。
「地域の学校に通わせたい」と願う保護者と、備わっている聴力を活用した教育が
必要と考えた耳鼻科医の熱意で実現した。
この出水小の卒業生の進学先として68年に設置されたのが二条中の難聴学級だ。
これまで319人が卒業した。
同校には、難聴学級の併設によって生まれた特色が幾つかある。
例えば、全校集会では舞台の横にスクリーンが設置され、壇上で
話された内容が文字で表示される。
澤田清人校長は「一昨年4月の着任式の際、事前にスピーチ原稿を求められて驚いた」
と笑顔で振り返る。
事前に文字起こしをしておくためだ。
毎年秋にある文化祭を締めくくるのは「手話コーラス」。
各学年やクラスの歌や演奏、ダンスの発表の後、全校生徒が手話で合唱する。
通常学級の生徒も手話に触れる機会として同校の名物の一つとなっている。
昨年12月の同校創立70周年・難聴学級開設50周年記念の式典でも、
生徒たちは人気バンドの曲を手話を交えて披露した。
障害のある生徒とない生徒が日常的に交流する同校の難聴学級。
「難聴の生徒は自身の障害に向き合うためにも、悩みを話し合える仲間が必要。
地域の学校で聴覚障害のある生徒の集団を保障しつつ、聞こえる生徒とも
関わり学んでいく環境は非常に素晴らしい」と、
聴覚障害児教育に詳しい岩田吉生・愛知教育大准教授は評価する。
だが、現在に至るまでには数々の変遷があった。
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