PRESIDENT 2018年9月3日号
老親の認識は間違いだらけだ
頑固になった、キレやすくなった……。そのとき「年寄りはそういうものだ」とあきらめてはいけません。対処が遅くなれば、事態はより悪化します。今回、3つのテーマに応じて、専門家にアドバイスをもとめました。第1回は「老親にありがちな事例」について――。(第1回、全3回)
【第1位】都合が悪くて、聞こえないふり
「忘れず薬を飲んでね」「部屋を片付けて」と言ったのに、
親が聞こえないふりをしたり、返事はしたものの、実際は
頼んだことをやってくれないことがよくあります。
写真=iStock.com/Rostislav_Sedlacek
これは性格が頑固になったわけではなく、聴力が低下し、本当に聞こえていないこと
がほとんどです。
なかでも聞こえにくくなるのが、「高い音」です。
特に若い女性の声は聞き取りづらくなります。
ただし本人は、「聞こえない」とは言ってくれません。
「聞き返したら悪い」と気を使ったり、確認が面倒になったりして、
わかったふりをすることが多いです。
ところが肝心の内容が聞こえていないので、頼んだ通りには
行動してくれないわけです。
難聴が原因なら、家族が「ちゃんと聞いてよ!」と怒鳴っても
問題は解決しません。
まずは試しに、いつもより低い声でゆっくりと話しかけてみてください。
早口になりやすい人は、親が話すスピードに合わせるよう心掛けてください。
また、難聴の予防改善にはマグネシウムが効果的なので、海藻や
アーモンドなどを食生活に取り入れるのもよいでしょう。
すでに難聴が進んでいるなら、補聴器の使用も検討してください。
日本では補聴器に抵抗を感じる人が多いのですが、最近のものは
非常に小さく、耳に装着してもほとんど目立ちません。
【第2位】運転・散歩中に、赤信号を渡る
運転中に赤信号を見逃したり、信号が赤なのにゆっくりと
横断歩道を渡ったりと、高齢になると交通に関する困った行動も多くなります。
特に運転については、高齢者による事故が大きく報じられることが
増えたため、少し車をこすっただけで、若い人でもこするのに、家族も
「運転をやめさせようか」と考えがちです。
しかし認知機能に問題があれば、免許は更新できないはずですし、
それだけで運転をやめさせると、かえって認知症を発症しやすくなることが
わかっているので、安易に免許を取り上げないほうがよいでしょう。
では、運転中にしろ横断歩道を渡るときにしろ、なぜ赤信号を
無視するかといえば、最大の原因は目の機能低下にあります。
高齢になると、視力は悪くなくても、視野が狭くなります。
しかも年齢とともにまぶたが下がるため、特に上のほうが見にくくなります。
だから、高い位置にある赤信号が目に入らないのです。
まぶたが下がるのを予防するには、ホットタオルなどで
目の周りを温めて、血流をよくすること。
また、コンタクトレンズは長時間の使用を控えるか、眼鏡を勧めてください。
特にハードタイプは、まぶたが下がりやすいので要注意です。
根本的な解決策としては、眼科で手術を受ける方法もあります。
まぶたの皮膚を切って上を見やすくするもので、30分から1時間程度で終了し、
1週間ほどで抜糸できるので、体への負担は少なくリスクもほとんどありません。
【第3位】止まらない、ネガティブ発言
高齢になると、「私のことが邪魔なんでしょ」などとネガティブな
発言が増える傾向にあります。
聞かされる家族は気が滅入りますが、「そんなこと言わないで!」と
注意しても効果はさほどありません。
人間の脳は、昔のことはポジティブに捉え、最近のことは
ネガティブに捉える構造になっています。
だから高齢者は、「昔はよかった」という話はしても、最近のことは
どうしても悪く言いがちなのです。
家族は親を気遣うつもりで、
「料理は私がやるから、お母さんはゆっくりして」
「庭の木の手入れは危ないから、親父はやらなくていいよ」
などと言いますが、
親は自分が役に立たない人間のように感じます。
すると、ますます発言がネガティブになるのです。
この場合の適切な対応は、むしろ親に家事や仕事をお願いすることです。
植物の世話や安全な場所の掃除などを頼むとよいでしょう。
さらに「お手伝い、ありがとう」といったポジティブな反応を忘れないこと。
高齢になるほど感情を伴う記憶は残りやすくなるので、
少し大げさなくらいに表現すれば、親も満足感や充実感を得た記憶が定着しやすくなり、
ネガティブな発言は自然と減っていきます。
▼老親にありがちな事例とやってはいけない対応策
(1)言うことを聞かないとき
×:親に怒る
○:低い声で話す
(2)運転・歩行が危ないとき
×:外出を禁止する
○:目を温める
(3)ネガティブ発言が多いとき
×:やめてと言う
○:役割をつくる
平松 類
医師・医学博士
二本松眼科病院眼科専門医などを務める。著書に『老人の取扱説明書』(SBクリエイティブ)など。
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