ろうを生きる難聴を生きる▽西日本豪雨から半年2~安心のためにできること※字幕

NHKハートネット 福祉情報総合サイト  2019年1月12日


半年前、各地に甚大な被害をもたらした西日本豪雨。聞こえない人の中には、雨音が聞こえず、情報も得らないまま朝を迎える人もいました。夜の災害では見えず、聞こえない状態になります。災害から身を守るには?聞こえる人とどう連携すればいいのか?2週にわたり考えます。後編は広島県の取り組み。ろうあ連盟がSNSを活用してボランティアを組織。聞こえる人と一緒に地域の支援に取り組みました。得られた成果と実感とは? 出演者ほか 

【語り】高山久美子


西日本豪雨から半年2~安心のためにできること

 西日本豪雨から半年2~安心のためにできること 

去年(2018年)7月の西日本豪雨。

 各地に甚大な被害をもたらしました。


 いつ起こるかわからない災害にどう備えるか?

そして、災害が起きた時、私たちは何をすべきか。

2週にわたって放送しています。


 今回は聞こえない人たちによる、ある画期的な取り組みを伝えます。 

彼からは、広島県のろうあ連盟が組織したボランティアです。

延べ400人近くが参加し、被災地域で支援活動を行いました。


ボランティアスタッフ 

「ここは山に囲まれているので、被害がひどいと思いました。少しでも被災者の負担が軽くなるように手伝いたいと思いました。」


ボランティアスタッフ 

「以前、東日本大震災があった時、ボランティアの様子を見ていましたが、遠くて行けなかった。でも、今回は近くで起きたし、みんながボランティアをしているのを見て、自分も助けに行かなければという気持ちが自然に湧き上がりました。」


 3か月にわたり、さまざまな人たちと一緒に汗を流したろう者たち。

活動の範囲は、聞こえない、聞こえるの垣根を超えて広がっていったといいます。


支援を受けた聴者の女性

 「本当に本当に感謝!」


広島県ろうあ連盟 理事長 迫田和昭さん

 「(支援が必要な)家に行ったら、ろう者だからと断られるのではなく、快く受け入れてくれました。お互い心のつながりが出来たことが大きかったです。」

全国で初めて生まれた、ろう者の団体による災害ボランティア。

その活動の大きな成果を伝えます。


ボランティアスタッフ 

「頑張れ!広島。」


 台風と梅雨前線の影響で大雨が降り続いた、去年7月。

川からは水があふれ、大きな被害となりました。

 先月(12月)開かれたボランティア活動の報告会です。

 災害発生から1週間後の7月14日にボランティアセンターが立ち上がり、

県全域41か所で活動が展開されました。 

SNSでボランティアへの参加を呼びかけました。


ボランティアへの参加を呼びかけた動画 

「いつもの大雨だろうと思いましたが、予想に反し土砂降りとなりました。道路は陥没、土砂崩れに土石流、家は床上浸水、2階まで土砂が入ったりなど、さまざまな被害を受けました。なので、皆様どうかご協力をよろしくお願いします!」


 この呼びかけに広島県内だけでなく、遠くは北海道や鹿児島からも、

ろう者が駆けつけます。

 手話のできる聞こえる人、聴者とチームを組んで被災地に入り、活動が始まりました。

聞こえない、聞こえるに関わらず、困ったときはお互いさま。

被災したろう者、そして聴者の家もまわって活動が行われました。


  広島県内から参加した島田美和さんと那須美織さんです。

 子育てや家事と両立させながら活動しました。

ボランティアの募集を友達から聞いた時、助けてあげたいと、

いてもたってもいられない気持ちになったといいます。


島田美和さん 

「土がいっぱいで、車はぺしゃんこで、それが衝撃的でした。とにかく大変でした。でも、だんだんときれいになっていくのを見ると、本当にうれしかったです。少しでも、普通の生活を取り戻して欲しいという気持ちだったんです。」


 那須美織さんは、被害が大きかった坂町の坂西や小屋浦地区などに入りました。


那須美織さん 

「この時、臭いがきつくて、トイレの汚水以外にも、雨水と土砂の混じった臭いが残っていて、外で作業していても臭いがすごくて、しんどかったです。」


 孤立しがちな、ろうの被災者には、こころのケアが大切なことを実感しました。


那須美織さん 

「この時は聞こえない人のお宅だったんですけど、聞こえないおじいさんおばあさんに(災害の)体験を聞きました。こんなにひどかったんだ、無事で良かったと話をしました。少しコミュニケーションがとれて良かったと思います。」

 島田さんと那須さんが支援した生田さんご夫婦です。

災害から半年、今は落ち着いた生活を取り戻しています。


生田照彦さん 

「コミュニケーションができて、いろいろな話ができてうれしかったです。被災直後は、いろいろ考えすぎて気持ちが落ち込んでいました。思い悩むこともありました。でも少しずつ前に進もうという気持ちになり、ストレスもなくなっていきました。」

センターを立ち上げた、ろうあ連盟のメンバーです。

 今回の迅速な動きの背景には、4年前、同じ広島を襲った災害の時の

ある経験があったといいます。

 平成26年8月の土砂災害です。

わずか3時間で200ミリを超える集中豪雨によって、大規模な土石流が

住宅に流れ込み、甚大な被害をもたらしました。

 このときも各地のろう者からボランティアをしたいという

希望はありましたが、壁があったといいます。


広島県ろうあ連盟 上土居理絵さん 

「ろうあ連盟の災害ボランティアセンターを立ち上げる前に、個人のろう者や難聴者がボランティアの受付窓口へ行ったら、『あなたは難聴者?』『ろう者?』と言われ、断られるという例が多かったそうです。断られたその方が今回、ろうあ連盟の支援チームと一緒に活動ができて本当にうれしかったという声がありました。」


広島県ろうあ連盟 横村恭子さん 

「本当は行きたいけど、ろう者だから迷惑をかけるんじゃないかって遠慮する声も多かったです。聞いたことですが、ボランティアに行きたいけど、手話通訳が必要なので、通訳を自分で探して一緒に行ってもらったという話を聞きました。ろう者が手話通訳を探して一緒に行くのではなく、誰もが参加できるかたちがいいと思いました。」


 今回立ち上げたセンターでは、組織として地元の社会福祉協議会としっかり連携。

相談のうえで支援先を決め、活動に取り組むことにしました。

 それでも当初は、意思の疎通が思うようにできず、聞こえる人と

トラブルになることもあったといいます。


広島県ろうあ連盟 横村恭子さん

 「私が支援に行った場所で、家の前の空き地にテントを張って休憩しているろう者がいました。知らないおじいさんが来られて、怒った様子で話しかけて来ました。でも、ろう者は何を言われているのか分からなくて、通訳者にやっと来てもらったら、『ここにテントを立ててはだめ』と言われました。あのおじいさんは被災者で少しイライラされていたんだと思うんですけど、話かけても、ろう者の反応がないということで、余計に腹が立ったのかなと思います。そういうトラブルがありました。ろう者は見た目では分からないので、下手をするとけんかになるという恐れがあります。やはり、ろう者と見た目で分かる印を付けたほうが良いと思いました。」


そこで聞こえないことが一目でわかるように考えられたのが、このスカーフ。

「手話が必要です」 
「耳が聞こえません」

 こうした工夫とボランティアの懸命な姿に、地域の聞こえる人たちも

心をひらいていったといいます。


島田美和さん

 「聴者にとっては差別をする人もしない人もいますが、中にはろう者に対して、すごくやさしくて、手話にも興味を持って下さる方もいました。聞こえない人にどう接したらいいのかと、聞いてくれた時は本当にうれしかったです。私たちもろう者であることを忘れるくらい、みんなと一緒に協力し合ってボランティアをしているという気持ちになれました。」


那須美織さん 

「聴者の方も、身ぶりしてくれたり、ゆっくり話してくれたりとか、マスクで口が隠れているので頑張って身ぶりで表して『これお願い』というふうに一緒に活動できました。暑さで頭がぼーっとした人も結構多かったんですが、それでも何とかみんなで力を合わせて乗り越えられたことが良かったなと思います。」 

「懐かしいね〜。」

 先月、ろうあ連盟の迫田和昭さんは、自ら支援に入った呉市を訪れていました。

土砂をかき出すお手伝いをした、聴者の日浦由美子さんと久しぶりの再会です。


日浦由美子さん 

「ここの床下に入るのは大変な事だったんだけど、それをやって下さったというのはすごい事ですよ。本当に感謝!ここの床下の土砂が取れたので、私も元気になれました。」

 迫田さんたちは、ろう者9人と聴者2人のチームを組み、4時間がかりで

床下に入り込んだ土砂を取り除きました。

 その懸命な活動は、日浦さんの「安心」を取り戻すとともに、

ろう者と聴者の新しい絆も生み出したのです。


広島県ろうあ連盟 理事長 迫田和昭さん 

「すごくうれしいです。本当にうれしいです。やって良かったと思います。聞こえる、聞こえないに関係なく困ったときはお互い助け合うことが大切だと思います。」


「ろう者の災害ボランティア活動について。」


全日本ろうあ連盟 理事 荒井康善さん

「本当にすごくいい事だと思います。まだまだ聞こえない聴覚障害者への理解が広まっていないので、聞こえない人への理解を社会に広めることにつながると思います。災害が怒ってから動くのではなく、日ごろから聞こえないことがどういうことかを広める活動ができれば、災害が起こった時にコミュニケーションがとれて少しでも情報が入ってくることにつながると思います。」


 聞こえない、聞こえるの壁を超えたボランティア活動。

それはこれから先も地域を支える力になっていくはずです。




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