産経ニュース 2016.2.23
人工内耳システム
会話が聞き取れないなど高度の難聴者を補助するための人工聴覚器が進化している。
その代表例が体内に装置を植え込む「人工内耳」。
音の情報を神経に伝える蝸牛(かぎゅう)に電気刺激を与え聴力を確保する。
性能の向上とともに、聴力やライフスタイルに応じた手術法や機種も選べるようになってきた。
人工内耳の手術には健康保険や医療費補助が適用されるようになり、
普及の追い風になっている。
(坂口至徳)
◆年間600例
聴覚の仕組みは、外部の音声により鼓膜が振動し、その揺れが中耳にある
耳小骨を介して、さらに奥の内耳にある蝸牛に伝える。
蝸牛では音の振動が電気の信号に変換され、その刺激が聴神経を通って
脳に届くことにより、音や言葉として認識される。
人工内耳はこの蝸牛の機能を増強し、内耳の障害による高度難聴を治療するもの。
手術では、まず体内装置(人工内耳インプラント本体)を皮膚の下に植え込む。
そこからリード線を延ばし、複数の電極が配置された先端部分を蝸牛に挿入する。
体外装置(オーディオプロセッサ)から送られた音の信号を受けて、
体内装置がその音声情報を電気信号に変換し、体内装置先端の電極により
聴神経を電気刺激するという仕組みだ。
土井勝美教授
国内では毎年約600例の人工内耳の手術がある。
年間手術数30~40例とトップクラスの症例数を持つ
近畿大学医学部耳鼻咽喉科(大阪狭山市)の土井勝美教授は
「最近になって65歳以上の高齢者が増えているのが特徴で、年齢にかかわらず
聞き取り能力は十分に改善されます」という。
人工内耳の装着様子
◆入院短期間
手術は全身麻酔で行い、耳の後ろ側の皮膚の下に体内装置を
植え込むとともに、中耳からリード線を走らせて電極先端を蝸牛に挿入する。
時間は1時間半から2時間程度。
入院期間も3日から1週間と短期間だ。
ただ退院後は、音が聞こえていたときに聞いて脳が記憶している
言語の母音や子音と、人工内耳による音声を結びつけるためのリハビリを行い、
聞き取り能力を高める必要がある。
また、患者本人の残存聴力を活用するタイプの人工内耳では、手術後も
内耳機能を保護することが課題になっている。
土井教授によると、従来の手術のように内耳の骨を削らず、窓のように
開いた部分から慎重に電極を挿入する新たな手術法も導入されている。
「96%の手術症例で内耳保護に成功しています」という。
◆1歳から
生まれつきの内耳の障害などで高度の難聴の子供に対して
人工内耳手術を行う例も増加傾向にある。
学会の基準が1歳半から1歳に引き下げられたうえ、片方だけでなく
両耳に人工内耳を装着する手術が保険適用となったためだ。
また、補聴器と合体した残存聴力活用型の人工内耳も新たに保険適用に。
「補聴器をつけていても高度難聴に悩まされている人も人工内耳手術の対象に加わりました」
と土井教授は説明する。
このほか、体外装置をコンパクトにしたり、
防水・防塵(ぼうじん)機能をつけたりすることで、
ライフスタイルに応じた機種の選択も可能になった。
また、従来は人工内耳を植え込むとできなかった
MRI(磁気共鳴画像装置)検査も行うことができる
新型インプラントが登場している。
1980年代に欧米で臨床導入された人工内耳は、世界中で
40万人以上が手術を受け、国内でも1万人以上の難聴者が装用している。
土井教授は、
「人工内耳のシステムは今後も進化し続け、適用の拡大と治療成績の
さらなる向上が期待されます。他人の話が聞き取りにくいなど不便を感じたら、
あきらめずに難聴治療の専門医に相談することを勧めます」
と話している。
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