障害者の就労支援は優しさの中に厳しさも…

WEDGE Infinity  2019年1月17日
吉田典史 (ジャーナリスト・記者・ライター)


 今回は、NPO東京自立支援センター(本部 国立市)の理事長の高森知さんを取材した。

髙森さんは東京、神奈川、埼玉、山梨などを拠点におしぼりのレンタル業をする

FSX株式会社(旧 藤波タオルサービス㈱)で、障害者の採用・定着・育成などに

20年以上関わってきた。

 2010年にNPO東京自立支援センター(本部 国立市)を設立し、その後、

FSX株式会社を退職し、障害者雇用により専念することにした。

NPO東京自立支援センター(本部 国立市)の理事長の高森知さん


(AndreyPopov/Gettyimages)


 同センターは現在、職員総数が49人。

社会福祉士や精神保健福祉士、保育士、ジョブコーチなどの資格を持つ職員が在籍している。


 就労継続支援A型、就労継続支援B型、就労移行支援を連携させながら運営をしている、

障害者のための就労支援事業所だ。

 特に就労継続支援A型に力を入れている。


 A型は、障害者総合支援法に定められた就労支援事業の一つで、

一般企業への就職が難しい障害者に就労機会を提供し、仕事に関する知識や

仕事の能力の向上に必要な訓練を受けることができる事業所だ。


 障害者は、同センターと契約をした会社や工場で主に次のような仕事などをする。

おしぼり・フェイスタオル・バスタオル包装作業、箱詰め作業、洗濯補助作業、

おしぼりの荷積み・荷降ろし作業、ドアマット・モップ等の棚入れ・棚出し及び整理整頓作業、

商品の入荷受け入れ・ピッキング・梱包・出荷作業、チラシ等の丁合作業、商品検査作業など。


  同センターでは、2019年1月現在、50人の障害者がA型の利用者として、

契約している会社や工場で働いている。

 50人のうち、42人が知的、3人が精神、5人が身体。


 いずれも労働契約は雇用契約型の最低賃金以上の契約となり、

1か月の賃金は週5日、1日6時間勤務で11万~15万円。


「自分が何かを達成した」という満足感を得てもらいたい

 私は、障害者の方の素直さや正直さ、時には嘘をつくけど、

すぐにばれてしまう、それを素直に認める。

 失礼な表現になっているかもしれませんが、落語に出てくる

与太郎を見ているようで、何とも愛嬌あり、そんなかわいらしさが好きなのです。


  知的障害者の中には、突然、昔のことを思い出したりして大きな声で叫ぶ方がいます。

健常者でも嫌なことを忘れることは難しいですよね。

 彼らの場合、過去にいじめられた記憶や怒られた出来事を忘れることが出来ずに、

繰り返し思い出してしまうのです。


 障害者の多数が失敗体験の積み重ねで育ってきています。

嫌な出来事は簡単には消すことはできませんが、たくさんの成功体験を

積み重ねてもらうことで少しでも違ってくるのかなと思っているのです。


  9年前(2010年)にセンターを立ち上げました。

当初は、主に多摩地区の特別支援学校を訪問し、一般就労できるか否か、

微妙なところにいる生徒さんを就労継続支援 A型という雇用形態で採用しました。

 正式に採用する前に、2~3回の実習をしてもらったのです。


 単純作業で、立ち仕事が多いのですが、ほとんどの生徒さんが

わき目をふらずに取り組みます。

 知的障害者の方は同じことの繰り返し、つまり、反復作業はよくできます。 


 採用試験では、職業指導員がそのような様子を観察し、評価し、

採否を決めさせていただきます。

 生徒さんにも、ここで働くことができるか否かを判断してもらいます。

双方の考えが合致し、採用となると、平均で2年ほど就労し、

それがいわば基礎訓練となります。


 その後、数年以内に一般就労としてほかの企業などに正社員や契約社員として

勤務することを目標にしています。 


 障害者の中には指導員の言い方を「キツイ」と受け止め、

めげてしまう方もおります。

 すると、工場の機械が止まってしまうんですよ。

それで、工場から私たちがお叱りを受けることがありました。

 その障害者の方にも言い分があるのでしょうから、私たちは丁寧に聞きます。 


 ご本人に言わざるを得ないこともあるのです。

「あなたはここで働くことを望んだのでしょう。将来は、一般企業で働きたいのでしょう?

あなたが機械を止めた間にも、工場はあなたの賃金を払うんですよ」。


 誤解なきように言えば、叱るような口調ではなく、諭すような物言いです。

指導員はパワハラなどの研修や講習を繰り返し受けていますから、心得ています。

 センターとして虐待防止研修と権利擁護の研修も徹底して行います。


  障害者の多くは、指導員の話をある程度は理解します。

おそらく、自分のことを認めてほしいという思いを持っているのでしょうね。


 自分が思っているようなアンサーを返してほしいのでしょうけれど、

そうとばかりにはなりません。

 そのようなときは、落ち込むことがあるようですが、

これを乗り越えないと、一般就労はできないのです。


障害者は十人十色、百人百様。

指導や対応は一概に決まったものがない

 私どものセンターに籍を置き、企業や工場で就労するのは、

労働意欲があり、働くことができうると思える方たちです。


 ここにいる知的障害者は、IQ 35ぐらいから70前後。

理解力は幼稚園児から小学校高学年程度のレベルになります。


 このような状況を踏まえ、障害者が「使えない」とするならばおそらく、

指導する側に問題があるのではないか、と思います。

 彼らは単純作業をすることは立派にできます、人によっては、

訓練次第で複雑な作業にも対応可能です。 


 彼らは、単純作業は、100%できるようになるのです。

我々では続かないようなおしぼりの検品作業を連続してできます。

 つまりは、教える側の力量でしょう。

指導員の力量で、障害者の力は変わっていきます。


  指導員の経験の浅い人は、就労する障害者の姿を見ると感動するんです。

次に、障害者の様子を観察するようになります。

 そして、いろんな本を読むのです。

その知識をもとに「こうしなければいけない」と、障害者に教えようとします。

 ここで、問題が起きるのです。

障害者は十人十色、百人十色。

指導や対応は一概に決まったものがありません。


 障害者の方の実情や実態を心得ることなく、1つの型にはまるような

指導をすると、困ったことになりえます。


 障害者の方からすると、一度、刷り込まれた作業や間違った指導は

すぐには抜けないのです。

 彼らは間違った学習を覚えてしまうと、それを意識から消すことが

なかなかできないことがありうるのです。


  しかも、このような指導員は、障害者が理解できないようなことまで

盛んに繰り返す傾向があるのです。

 障害者は視覚優位で、まずは言葉より見て覚える傾向があります。

それにも関わらず、指導員が「なぜ、できないの?」と責めてしまうことがあります。


 このような接し方を繰り返す場合は、有資格者であろうとも、このセンターでは

職業指導員の役割から外れてもらいます。


  まずは、経験が浅い指導員はこのセンターの先輩の後について、

個々の障害者への指導を学んでほしい。


 経験の豊富な指導員は、障害者との信頼関係を作るところから

始めていることがわかるはずです。

 指導員の力量=利用者の伸び幅になるのは、間違いありません。

同じ障害者でも、指導員を変えると、大きく変わることがあります。


 そのような差がつかないように、センターとしてミーティングを密にして、

指導員のレベルアップ研修などをしています。 


 センター設立当初は、福祉で仕事をしてきた人を採用しなかったのです。

私たちが力を入れる就労継続支援 A型では、企業で働いてきた経験者を

優先して採用を行いました。


 ここは、障害者が一般就労できるようなところにまで、力を

上げていくことが目標です。

 その際、企業で培った経験を活かす指導力が必要になります。


  就労継続支援A型では、指導を中心に支援を行います。

割合は「指導7」に対し、「支援3」と考えています。


 優しく温かく見守るだけでは、A型での就労支援は難しいと思います。

彼らができないことをできるにしてあげることが大事です。 


 一方、福祉を経験してきた方は、やさしく暖かく見守りつつ

障害者ができることを一緒に手をとりながら行う「支援」が中心になると考えています、

支援力はたしかにすばらしいものがあります。

 しかし、これは指導とは違うと私は考えています。 


 指導をして訓練を繰り返すことで、必ず、伸びます。

だから、私たちはあきらめない。

 今、できなかったとしても、違う手だてがきっとあるのです。

指導員と障害者が、信頼関係をつくると、力はすごく伸びます。

 

 だからこそ、このセンターの指導員は「使えない」とは言いません。

「ダメだな」と思うのは、障害者に対して失礼です。 


 実は、私自身が発達において偏りがあるのではないか思うことがあるのです。

私も嫌な思い出を何かのきっかけでリアルに思い起こすことが多いのです。


 だから、彼らに親近感があります。

前職(FSX株式会社)で多くの経験をさせていただきました。

センター設立後も、前職や多くの指導員、支援者、企業、

自治体関係者などに支えられてきました。


 障害者やそのご家族、支援者にも感謝しています。

ありがたいことですね。

これからも、何らかのお力に立ちたいと思っています。




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