NHK NEWS WEB 2019年1月15日
耳が聞こえない、聞こえにくい人たちが、安心して使える
「電話」があることを知っていますか?
「電話リレーサービス」と呼ばれています。
インターネットの発展によって、技術的には、情報の利用も
バリアフリー化が可能になってきました。
一方で、普及にはまだ課題があるようです。
「電話リレーサービス」を求める当事者の取材を進めると、電話を使えないことで、
聴覚障害者が日常的に様々な困難に直面し、命が脅かされる
事態さえ起きていることが明らかになってきました。
(社会部記者 小林さやか)
「電話リレーサービス」とは、耳が聞こえない人が電話をする際に、
日本財団から委託されたオペレーターが相手との間に入って、
手話で通訳するサービスです。
インターネットのビデオ電話を使い、センターにいるオペレーターに向かって、
電話をかけたい相手や要件を手話で伝えます。
すると、オペレーターが代わりに相手に電話をかけ、手話の内容を通訳して伝えます。
逆に問い合わせを受けたお店などから、聴覚障害者のお客さんに
用件を伝えることもできます。
オペレーターとのやり取りは、手話だけでなく文字チャットですることもできます。
手話が使えない聴覚障害者にも対応しています。
6年前から日本財団がモデル事業として行っているもので、去年12月の
時点で約8600人が登録し、1か月に3万回利用されています。
利用者“やり取りの時間大幅短縮”
「電話リレーサービス」を日常的に利用している廣川麻子さんです。
大学で、研究者として業務に当たっています。
「電話リレーサービス」を使うことで、仕事の進め方が大幅に変化したといいます。
これまで、仕事上連絡を取りたい時は、メールやファックスで
問い合わせをするしかなかったといいます。
返事がもらえず放置されることもしばしば。
ホームページなどの問い合わせ先に電話番号しか掲載していない企業も多く、
どうしてもという時には、人に頼んで電話をかけてもらうなどしましたが、
細かい部分まで内容が伝わらないなど、不便な思いをしてきました。
電話リレーサービスを使うようになって、
「やりとりにかける時間が大幅に短縮されて、大変助かっています」
と話してくれました。
電話できない不便さは日常的
これまで廣川さんは、電話が使えないことで、仕事だけでなく、
日常的に不便さに直面してきたといいます。
電話ができずに困ったことについて、聴覚障害者の皆さんに取材したところ、
様々な声が寄せられました。
▽宅配便の再配達を依頼したいが再配達の受付が電話しかなくて困る。
▽レストランや美容室、病院などの予約や変更ができず、直接行くしかない。
行ったら休業中だったことも頻繁にある。
▽車のキーをインロックしてしまった。周囲にいる人に筆談で助けを求めたが、
時間がかかり迷惑そうな顔をされてしまった。
▽クレジットカードを紛失してしまい、利用停止の手続きをしたいが、
電話しか受け付けていない。
いずれも聞こえる人にとっては当たり前のように電話で対応していることばかり。
取材するまでそうした困難に思いを巡らせたことがなかった
自分の想像力のなさに気付かされました。
課題は「緊急通報」への対応
さらに、電話が使えないことは、日常的な困難を生み出しているだけでなく、
命の危機にも直結しています。
おととし6月。
愛知県沖でプレジャーボートが転覆する事故が発生しました。
乗っていた4人の男性は全員聴覚障害者。
海上での緊急通報118番は、音声電話にしか対応していません。
4人は、電話リレーサービスを使って救助を要請し、一命をとりとめました。
実は、電話リレーサービスは、現状では、緊急通報に対応していません。
あくまでもモデル事業であり、通常の電話のように法律に基づく
公的なサービスとして行っているわけではなく、「誤訳」した場合の責任の
所在もはっきりとしていないからです。
また、限られた予算で行っているため、利用できる時間も、
午前8時から午後9時までと限定的です。
この事故では、オペレーターが、人命優先の観点から例外的に海上保安部に通報し、
夜9時を超えて時間外も対応に当たりました。
モデル事業開始以来、オペレーターの機転で命が救われたケースが
他にもすでに2件起きています。
モデル事業を行う日本財団は、
「国が責任を持って電話リレーサービスの制度化を進め、特に緊急通報はきょうすぐにでも
始めるべきだと考えています」
とコメントしています。
国は、文字チャットで通報できる「Net119」などの整備を進めていますが、
導入している消防本部は全体の2割にとどまっています(去年6月時点)。
命に関わる緊急通報ができる仕組みが整っていないのです。
世界に遅れる日本
コミュニケーションのバリアフリー推進に取り組む
NPO法人インフォメーションギャップバスターの伊藤芳浩理事長は
「電話リレーサービスが公的な制度として提供されていないのは、G7の中で日本だけです。
そのため、日本では、就業や自立の阻害、安全に生活する権利の侵害につながっています」
と、諸外国に比べても日本が遅れている現状を指摘しました。
そのうえで、「電話リレーサービスは、当事者だけでなく、聞こえる人が、
聞こえない人・聞こえにくい人に連絡する手段でもあります。
また、さまざまな立場の人たちが広く社会参加することで、国全体への
経済効果にもつながるのではないでしょうか。社会全体で普及に取り組んでほしいです」
と話しています。
NHKでは、今週18日(金)に、「おはよう日本」で電話リレーサービスの現状と
普及への課題について特集する予定です。
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