ペトこと 2019/1/11
犬を飼っている方の中には、「自分では気づかない微かな音に愛犬が気づく」
という経験がある方もいるのではないでしょうか。
一般的にも、「犬の聴覚は人間よりも優れている」というイメージがあると思います。
今回は、犬の耳の構造や聴力、犬の聴覚で良くある疑問や、
犬の聴力低下について、紹介します。
犬の耳とは
犬と一言で言ってもさまざまな犬種が知られていますが、
耳の形も犬種ごとにさまざまです。
耳の形はその外見から、主に「直立耳」「半直立耳」「垂れ耳」に分けられます。
欧米ではその中でもさらに細かい分類がなされています。
・直立耳
柴犬やコーギーのようなピンと立った耳は直立型です。
ロシアのシベリアを原産地とするサモエドは、寒い気候に耐えられるように、
耳が厚く根元に毛が覆われていることが特徴です。
フレンチブルドッグの耳も直立型ですが、柴犬のように先端が角ばっていなく、
丸みを帯びていることが特徴です。
この外見がコウモリに似ていることから、海外では「コウモリ耳」とも呼ばれています。
・半直立耳
半直立型の耳は、直立型のように耳の根元から耳がピンと立っているものの、
その先端が折れ曲がっているのが特徴です。
コリー犬が半直立型の耳をもつ犬種として代表的ですが、同じコリーの仲間でも
ボーダーコリーは直立型です。
成犬では直立型の耳を持つ犬種でも、子犬の時には半直立型であることもあります。
半直立型の中でも、「ボタン耳」と呼ばれる形の耳を持つ犬種がいます。
ボタン耳とは、耳介(耳たぶ)部分が半分以上折れ曲がっている状態の耳を示します。
ワイアーフォックステリアなどのテリア種に多くみられます。
テリアは狩猟犬として改良されたものが多く、土などのホコリから
耳を守るためでもあると言われています。
「バラ型耳」という表現がされている耳の形もあります。
耳介が折れ曲がっているものの、後頭部の方に耳がついており、
グレーハウンドなどの犬種が該当します。
グレーハウンドやウィペットは、速く走れるように耳による
空気抵抗を少なくするため、このような耳の形であると言われています。
・垂れ耳
垂れ耳は、皆さんが想像されるように耳根元部から
下に向かって垂れている形です。
垂れ耳にも、耳根元が頭部のどのあたりに付いているかで
犬種ごとに微妙な違いがあります。
ワイマラナーやポインターは、頭の高い位置、
オールドイングリッシュシープドッグなどは、頭の低い位置に耳根があります。
・犬の耳の構造
耳の構造は耳の形に関係なく、大きく分けて外耳と中耳、内耳から構成されています。
軟骨質の外耳(耳介)が音を捉え、外耳孔を介して鼓膜に伝えます。
鼓膜の振動が中耳の平行器官を刺激し、平行器官は音を増幅すると同時に、
過剰な振動から内耳を守ります。
犬の聴覚は人間の何倍?
犬の聴覚は嗅覚の次に鋭い器官です。
可聴域や耳の形による聴力の差を紹介します。
・犬の可聴域
人間は、20〜2万ヘルツの範囲の音を聞くことができますが、
犬は最大で約5万ヘルツまでの音を聞くことができます。
つまり、犬は人間よりもより高い音を聞くことができます。
人間が日常生活で耳にする音は、日常会話で最大約4000ヘルツ、
飛行機の音でも最大で約1万3000ヘルツです。
イルカは最大で約12万ヘルツの音を出すことができます。
・耳の形による聴力の差
1歳から4歳までのチワワ、ダックスフンド、プードル、ポインター、
セントバーナードで聴力の差を調べた実験によると、直立型の耳を持つ
チワワと、垂れ耳を持つ他の犬種間にて、顕著な聴力の差(周波数)の差はありませんでした。
また、犬の大きさによって鼓膜面積の広さなどにも違いがみられますが、
犬の大きさと聴力の差(周波数)に関連性はありませんでした。
そしてこれら5犬種のなかで、一番音に敏感かつ、低周波の音を
聞き取れたのはプードルだったそうです。
・どれくらいの距離の音が聞ける?
一般に、犬の聴力は人間よりも優れていることが知られています。
例えば、家族の帰宅にいち早く気づくのは愛犬、ということはありませんか?
犬は1キロ以上離れた距離の音を聞くことが可能といわれています。
また、障害物のない空間の場合、それ以上遠くの距離の音を聞くことができます。
私たちにとっては何も聞こえなくても、愛犬が耳をぴくぴくさせている時は、
何か遠くの音を聞こうとしているのかもしれません。
犬の聴覚でよくある疑問
犬は低い声が苦手ということを聞いたことがある人もいるはず。
犬の聴覚について、よくある疑問とその答えを紹介します。
・犬と仲良くなりたければ高い声の方が良い?
お母さんが赤ちゃんに対して話す時、自然と声が高くなるものですが、
実は犬に対しても高い声で話しかけることに意味があります。
ある研究によると、大人が赤ちゃんに話しかけるような高い声で
犬に話しかけた場合と普通のトーンで話した場合では、犬は高い声に対して
より反応したという結果がみられたそうです。
犬との距離を縮めたい方は、赤ちゃんに話しかけるようなトーンで
ワンちゃんに話しかけてみるといいかもしれませんね。
犬はどんな音に反応する?
愛犬は日常生活でさまざまな音を聞いています。
大好きなおもちゃの音、おやつの袋を開ける音、人の声、車の音……などなど、
いろいろな音に囲まれて生活していますが、
「おやつの袋の音だけで犬が飛んできた」
「チャイムの音に対して吠える」など、ある音に対して反応がある一方、
関心を示さない物音もあります。
これは、「おやつの袋の音=おやつをもらえるかもしれない」
という条件反応の一種です。
ある音と、それに結びつく事実が一致し、反応します。
名前を覚えているワンちゃんは、自分の名前を聞くと反応します。
何気ない会話で、愛犬のことを話していると、もしかしたら
ワンちゃんが耳をすまして聞いているかもしれませんね。
犬の聴力が低下する原因
聴力が低下する原因には正常な老化のほかに、疾患によるものがあります。
それぞれ考えられる原因を紹介します。
・加齢・老化による聴力低下
人間が年を取ると耳が遠くなることと同様に、犬も加齢により耳が遠くなります。
老犬を飼っている人は、
「小さな声で名前を呼んでも飛んでこなくなった」
「小さな音に反応しなくなった」などの経験があるかもしれません。
このようなときは、少し大きく、高い声で愛犬を呼んであげましょう。
「急に全く反応しなくなった」という場合は病気などの可能性が
否定できませんので、病院で診てもらいましょう。
・遺伝性疾患
生まれつき耳が聞こえにくい、もしくは聞こえないというワンちゃんもいます。
白に黒のブチ模様が可愛らしく、人気のある犬種のダルメシアンは、
他の犬種と比較して先天的に耳が聞こえない子が多いことが知られています。
黒いブチ模様はメラニンという物質によりできており、白い部分は
メラニンの生成が抑制されています。
このメラニン生成の抑制が毛色だけでなく耳の蝸牛(かぎゅう)
という部分にも影響し、難聴など聴覚に悪影響を及ぼすのです。
ダルメシアンに先天的難聴が他の犬種よりも多くみられるのはこのためです。
・感染症
加齢や生まれつきの難聴以外にも、病気が原因で難聴になることもあります。
そのうちの一つが感染症です。
耳の中で外耳といわれる部分は、外界と接しています。
外耳道を構成する細胞・組織に炎症が起きると、外耳炎がみられます。
初期症状としては、頭をよく振る、耳が赤い、痒がっている、
悪臭がする等がみられます。
細菌、真菌などが感染し、炎症を引き起こすことが原因になります。
予防策としては、耳を清潔に保つことが一つです。
人間の何倍も優れた犬の聴覚
犬の耳の形、聴力、病気のことなど、犬の聴覚に関することを
紹介させていただきました。
私たち人間が聞く音とは違う音の中で生活している犬たちの世界は、
どのような世界なのでしょうか。
犬の優れた聴力は、人間の声も識別・認知し、私たち人間との
コミュニケーションにとっては大切です。
言葉は話せなくても、愛犬にいろいろと話しかけて、
コミュニケーションをとってみてください。
引用文献
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- Cole LK. Anatomy and physiology of the canine ear. Vet Dermatol. 2010 Apr;21(2):221-31.
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