毎日新聞 2018年12月16日
風疹の予防接種を呼びかける大畑茂子さん
=大阪府守口市で2018年11月26日、梅田麻衣子撮影
風疹が猛威をふるう中、予防接種の大切さを広めようと奔走する女性がいる。
大阪府守口市の大畑茂子さん(52)は妊娠中だった21年前に風疹にかかり、
生まれた娘には難聴の障害が残った。
「子供に被害が及ぶのは、声を上げてこなかった私たちの責任だ」。
大畑さんは同じような母親らと家族会を発足させ、ワクチンの早期接種を呼びかけている。
大畑さんは1997年8月、三女の花菜子さん(20)を妊娠して14週を迎えた頃に
風疹にかかった。この直前、幼稚園児だった長女も風疹になっていた。
「予防接種を受けた記憶はなかったが、感染すると思わなかった」。
40度を超える高熱と全身の発疹が続き、約1週間入院した。
妊娠初期に風疹にかかると胎児の目や耳、心臓に障害が出る可能性を、
医師の言葉で初めて知った。
「先天性風疹症候群」。
合併症で死の危険もあり、医師はこう付け加えた。「中絶して帰るよね」。
心ない一言に動揺したが、夫(52)の「何があっても俺らの子や。見捨てられへん」
という言葉に救われ、5カ月後に出産した。
花菜子さんは生まれつき右耳が聞こえにくい。幼い頃には後ろから迫る車の音に
気付かず、大畑さんが抱き寄せたこともある。
周囲に配慮を求めたが、難聴の原因は隠した。
「私の無知が全ての始まり」と、罪悪感を抱え込んでいたからだ。
「風疹をなくそうの会」を5年前に設立
5年前の春、一人の女性との出会いが転機になった。報道機関の紹介で、妊娠中に
風疹にかかり目に障害のある長女を産んだばかりの西村麻依子さん(36)と知り合った。
自分を責め続ける西村さんに接し、悔しくて涙が止まらなかった。
「黙っていても何も変わらん」。大畑さんはこの年、西村さんらと
「風疹をなくそうの会」を設立。
自らの体験を講演会で語り、ホームページで情報発信する。
大学生になった花菜子さんが「私も力になる」と活動を手伝ってくれる時もある。
風疹が大流行する今年。大畑さんは、友人から
以前教えられたある演劇の存在を思い出した。
「遥かなる甲子園」。半世紀前、風疹の影響で難聴になった沖縄の子らが、
甲子園を目指す物語だ。
「演劇なら風疹を身近に考えてもらえる」と考え、この舞台を続けてきた
大阪の劇団に相談。家族会が資金を募り、来年1月14日に
大阪市中央公会堂で公演を主催することが決まった。
2月24日には東京公演もあり、いずれも入場無料。
大畑さんは「風疹はワクチン接種で防げる。大切な家族や周囲の人を悲しませずに
すむことを、もっと広めたい」と訴える。
【山崎征克】
患者数、昨年の26倍
国立感染症研究所によると、今年の風疹患者数は5日現在、2454人で
昨年1年間の26倍に達している。
2000人を超えたのは2013年の大流行以来5年ぶり。
感染研によると、風疹は予防接種で防げるが、妊婦は受けられない。
5年前の流行期には妊婦の感染も続発。
全国で45人の乳児が先天性風疹症候群にかかり、うち11人が死亡した。
このため周囲の感染予防が大切になる。
厚生労働省は今月、子供の頃にワクチンの定期接種を受ける機会がなかった
39~56歳の男性について、予防接種の費用を来年から3年間は原則無料にすると発表した。
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