朝日新聞デジタル 2018年11月19日
凸凹の輝く教育/合理的配慮を考える(6)
◆ろう者との学び、高校手探り
都立小平高校3年の西脇将伍さん(18)は、大学受験のまっただ中。
高校の授業中は、机の上に置いたスマートフォンと黒板を交互にせわしなく見る。
画面に文字で映し出される教師の言葉を読みながら、授業内容を理解するためだ。
机の上のスマホに映し出される教師の言葉を読みながら、授業を受ける西脇将伍さん
=小平高校、斉藤寛子撮影
ろう者の西脇さんは「遠隔パソコン文字通訳システム」を使って授業を受けている。
教師が胸元につけたマイクで伝えられる音声を、離れた場所でスタッフが
文字に起こし、スマホへ送る仕組み。
教師も「そこ」や「あれ」などの代名詞はなるべく避け、具体的に説明するよう心がける。
費用は年間200万円で、都が補助している。
中学まで私立のろう学校で学んだ西脇さんは、小学1年で始めた
野球を続けるため、野球部の強い小平高校を目指した。
受験にあたっては、NPO法人「バイリンガル・バイカルチュラルろう教育センター」
(大田区)の助言を受け、聞こえる同級生と一緒に学ぶために
何が必要か、高校に伝えた。
推薦入試の一環だった5人との討論では手話通訳をつけ、周囲の発言を理解した。
一方、自らの発言を手話通訳者が話すことは「第三者の関与になる」として許可されず、
ホワイトボードに書いて伝えた。面接は全て筆談で行った。
ろう学校で習う「日本手話」は日本語と文法が異なる。
日本語の読み書きは第2言語として習い、外国語のような感覚。
文章を書くときは日本手話で考えてから、日本語に変換する。
高校受験は、
「自分の日本語が伝わるか不安で、聞こえる人と同じレベルに近づけるよう頑張った」
と振り返る。
合格後も、配慮してもらった。同校では、ろう者の生徒は初めて。
3年間担任をする比留間康教諭は、裏紙を束ねて作った筆談用のメモ用紙を常に持ち歩き、
遠隔通訳を使えないホームルームでは、教室の隅に置いた小さなホワイトボードに
要点を書き、西脇さんに伝える。
西脇さんの同級生たちとのコミュニケーションは筆談と身ぶり手ぶり、そして簡単な手話だ。
文化祭の演劇ではせりふのない役を演じ、英語のスピーチコンテストでは
西脇さんの手話を同級生が英訳して話した。
合唱コンクールでは、歌に合わせて手話を披露した。
「少しでも、手話を覚えてくれたらうれしいい」という西脇さんにとって、
周囲の理解が学校生活の支えになっている。
大学では国際関係を学び、将来は世界のろう者と交流したり、ろう者への
偏見をなくす活動をしたりしたい。
センター試験は英語のリスニングの免除を受けるために、耳鼻科の診断書と
高校での英語の授業の様子を書いた報告書を8月に提出し、9月に受理された。
筆記試験の、発音やアクセントに関する問題の免除も求めたが、
「実施要項の見直しが必要で、今回は応じられない」との回答だった。
200点満点の試験で、14点を占める。
「生まれたときから音のない世界で、発音は必要がないし、勉強法もわからない。
ろう者について、もっとみんなに知ってもらいたい」。
(斉藤寛子)
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