<言葉のかたち(下)>20年遅れの環境

佐賀新聞  LiVE11月5日


通訳士育成など課題山積

 佐賀県手話言語条例施行翌日の9月27日夜、佐賀市の県聴覚障害者サポートセンター。

「『佐賀』という手話は、早稲田大学を創設した

大隈重信がかぶっている帽子の房に由来します」。


 佐賀大、西九州大の手話サークルや同好会のメンバーが、

手話通訳士の香田佳子さん(54)から手話を学んでいた。

「水を飲む」という手話表現を学ぶ佐賀大や西九州大の手話サークル、同好会
=佐賀市の県聴覚障害者サポートセンター


  佐賀大の同好会「しゅわッチ」は、7月に結成したばかり。

教育学部1年の竹下雅哉さん(21)が「耳が聞こえない弟と手話で話したいと思った」

のがきっかけだ。覚えたての手話で弟に自己紹介すると、弟も手話で自分のことを語った。


 兄弟だから既に知っている内容なのに、「弟の言葉」で理解し、

伝えられたことがうれしかった。


  九州で他県に先んじて条例を制定した佐賀県だが、聴覚障害者を取り巻く環境は

「他県より20年遅れている」との指摘がある。 


 2014年度にオープンした県聴覚障害者サポートセンターは、全国で48番目の後発。

出遅れの影響は、通訳者養成で顕著に表れている。 


 手話通訳士は今年4月現在で全国に3608人いるが、佐賀県内には6人しかいない。

全国最低で、通訳士に次ぐ通訳者も23人しかいない。  


 通訳者になるには講座を受ける必要があり、最短でも3年かかる。

昨年度の佐賀県の合格者は4人で合格率は36%。

全国トップの合格率(全国平均12・8%)だったものの、一発合格の難しい試験だ。 


 5年後の23年に開かれる国民スポーツ大会・全国障害者スポーツ大会では、

手話通訳や要約筆記などの情報支援者が数百人規模で必要となる。

大会運営に直結する課題で、支援者育成が急務となっている。


  県内には手話言語条例の「先進地」がある。嬉野市は14年7月、

九州の自治体で初めて施行した。市福祉課は、年5回の手話研修会などで

市民への啓発に取り組んでいる。

同課は「市民の手話への理解は一定高まった」と評価する。


  一方、県聴覚障害者協会は「嬉野市の取り組みは物足りない」とみる。

条例に関連する市の年間事業費は4万8千円。香田さんは、

「予算規模が小さく、期待していたような普及啓発や

人の育成にはつながっていない」と指摘する。  


 このような背景もあり、県条例は16条で

「必要な財政上の措置を講ずるよう努めなければならない」と踏み込んで書いた。


 中村稔理事長(59)は条例制定は「ゴールではなくスタート」と強調する。


  竹下さんのサークルには背景はさまざまだが、同じ思いを持つ約20人が集まった。

若い世代では、手話が一つのコミュニケーション手段として認識されている。

「手話で直接、話したい」。

この素朴でまっすぐな思いが、県条例がうたう「聞こえの共生社会」をつくっていく。




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