産経ニュース 2018.10.29
聴覚障害者の離職防げ 大阪のNPO、
マナーやパソコン指導
耳が聞こえないために必要な情報が入らず、周囲とのコミュニケーションもうまくいかない-。
そんな悩みから職場を去ってしまう聴覚障害者が働き続けられるように
支援する試みが今年、大阪で始まった。
「大阪ろう就労支援センター」(大阪市中央区)のビジネストレーニング。
障害に応じてパソコン技術やビジネスマナー、コミュニケーションスキルなどを教える。
聴覚障害者の就労支援に特化した取り組みは珍しいという。
白いベストを着用したスタッフの指導でパソコン訓練を受ける利用者
=大阪市中央区
手話で学ぶ
10月半ばの午後、センターでは利用者たちがエクセルやワードなどの
パソコン技術を学んでいた。
訓練内容は一人一人にあわせて異なり、パソコンに精通した
聴覚障害のあるスタッフが手話で丁寧に指導する。
2月から通っている新島浩章さん(27)は高校卒業後、印刷関係の会社に就職したが、
1年ほどで退職。
「学校で学んだパソコン技術だけでは仕事についていけず、周りの人たちと
コミュニケーションをとるのも大変だった」と振り返る。
その後勤めた運送会社で腰を痛めたこともあり、軽作業の仕事を希望しているが、
パソコンのスキルアップに取り組んでいることで職探しの幅が広がったという。
最近仕事を辞め、この日センターを見学して利用を決めたとい
う柏原星奈(せな)さん(20)も
「手話で教えてもらえるのが大きい。エクセルやビジネスマナーなどを勉強し、
長く働ける仕事を見つけたい」と話す。
卒業生からの訴え
センターは、NPO法人「大阪ろう難聴就労支援センター」が今年1月に開設。
国からの給付金で運営され、前年度の所得に応じて利用者に負担金が生じる場合がある。
現在20代を中心に12人が通う。
障害者雇用促進法の改正で法定雇用率は4月から0・2ポイント引き上げられ、
国や地方自治体は2・5%、民間企業は2・2%となったが、
センターの前田浩理事長(65)は
「聴覚障害者は比較的雇用されやすい半面、職場の定着が良くないとされている」。
上司や同僚らとのコミュニケーションの難しさから、人間関係に影響し
離職してしまうケースが多いという。
前田さん自身も聴覚障害があり、今春まで大阪市内の聴覚支援学校で教員を務めていた。
耳から得る情報が少なく、助詞や活用形などの自然な言語習得が難しい
子供たちのために学習ドリルを出版するなど学力面に力を入れてきたが、
「同窓会や文化祭などで卒業生に会うと、ビジネスマナーやコミュニケーション面で
苦労している状況を訴えられる」と話す。
たとえば「部屋に入るときにノックをするのは常識ですが、
聴覚障害者からすれば聞こえないから意味がないと考えがちです。
でも、それは通用しない」と前田さん。
「教員生活では教えられなかったことを伝えていきたい」と語る。
ギャップを埋める
一方で、前田さんは「職場の聴覚障害者に対する理解や配慮によって、
働きやすさは大きく左右される」と雇用側の問題点も指摘。
「企業などが求める技能や知識と、聴覚障害者のスキルとの
ギャップを埋めることが大切だ」と強調する。
センターでは、パソコン技術のほか、来客対応などのビジネスマナー、
周囲に自分のことを伝えたり相手の話を聞いたりするコミュニケーションスキル、
就職に向けた面接など多彩な訓練が行われており、
前田さんは「一人一人の可能性を引き出し、本人が希望する職に就けるように応援したい」。
利用期間は原則2年だが、スキルが身につけば早めに就労につなげていく予定で、
「会社に入って終わりではなく、働き続けられるようにすることが大切。
就職後もフォローしていきたい」と話している。
問い合わせは同センター
((電)06・6941・8111、ファクス06・6941・8112)。
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