障害者もボランティア

YOMIURI ONLINE  2018年09月11日


障害者もボランティア

◇豪雨被災の坂

 聴覚に障害のある大阪府高槻市、公務員黒川大樹さん(29)が、

西日本豪雨の被災地を一人で訪れ、復興ボランティアに参加した。


 障害者によるボランティアは全国的にも珍しく、黒川さんは「聴覚障害」

と書かれた特製ビブス(ベスト)を着用して、健常者とともに汗を流した。


 「耳が聞こえない自分が活動する姿を見て、一人でも多くの障害者が参加してくれれば」

と願いを込めている。(伏山隼平)

「聴覚障害」と記したビブスを着用し、ボランティアに参加する黒川さん(坂町で)


◇大阪の男性 特製ビブス着け作業に汗

「後ろから声をかけられても聞こえません。ゴメンね! 皆頑張ろう!」。

 先月30日、土砂が流入した坂町の住宅地。背中にメッセージ入りの

ビブスを着た黒川さんが、マスク姿で家屋に流れ込んだ土砂をかき出していた。


  大阪府生まれ。4歳の時に難聴と診断され、20歳で自分の声も聞こえなくなった。

見た目は健常者と変わらないため、普段の生活では、周囲の人に

障害を気付いてもらえないことが多いという。  


 特製ビブスを作ったのは2015年。趣味のマラソン大会に出場したときだった。

後ろを走っていたランナーとぶつかり転倒。

レース終了後、「周囲に障害を伝えれば、接触はなかったのでは」と考え、

試行錯誤の末、ビブスに「聴覚障害」と書き込んで目立たせることを思いついた。


 高槻市役所に勤務。6月の大阪北部地震では、同市役所の罹災りさい証明を担当し、

落ち込む被災者を目の当たりにした。

「災害ボランティアをしたい」と思いを募らせるようになった。 


 西日本豪雨から1か月たった8月上旬。「人手が必要なはず。協力したい」。

自分から障害を伝えることで、コミュニケーションをとるのに役立てようと、

ビブスをバッグに詰め、岡山県倉敷市真備町と、坂町をそれぞれ訪問した。 


 ビブスの効果もあって、現地では、ボランティアや住民から、

手順や作業場所を身ぶり手ぶりで教えてもらい、円滑に作業を進めることができた。 


 今後も被災地に赴く予定だ。


黒川さんは

「耳が聞こえなくても人を助けたい気持ちに差はない。
障害者でもできるんだということを、

健常者にも障害者にも知ってもらいたい」と話した。

           黒川大樹さん


◇自立や雇用創出に期待

 障害者が復興ボランティアに参加する動きは、西日本豪雨以降、県内で広がりつつある。

関係者からは、「社会的自立や雇用創出につながる可能性がある」と期待の声が上がっている。


  西日本豪雨では、県ろうあ連盟(広島市南区)が、聴覚障害者対象のボランティアセンターを

設置。約100人の障害者が登録し、清掃や土のうづくりなどに参加した。

同連盟の横村恭子さん(60)は「被災者に喜んでもらい、障害者自身も

『できるんだ』と自信を持つようになった」と効果を強調する。 


 ただ課題も残る。障害者差別をなくす活動をする日本アビリティーズ協会(東京)の

伊東弘泰会長(76)は

「障害者は支援を受ける側で支えるのは無理だ、という偏見がいまだある」

と指摘。

「障害者が参加できる環境を社会全体でつくり、

障害者自身も参加する意思を示さなければならない」と話した。




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