カナロコ by 神奈川新聞 8/5(日)
聴覚障害者を手話で救う
二宮町消防署員が自主講習
聴覚障害のある人を救急搬送する場合などに役立てようと、二宮町消防署の署員が
この春から自主的に手話を学んでいる。9人が非番の時間を利用し、週1回の
講習を受けているが、実際に搬送時に習いたての手話を活用したこともあるという。
「100人を救っても1人でも救えなかったら意味がない」。
署員たちは使命感に燃えている。
二宮町民センターの会議室に、少し遅れて当直明けの署員2人が姿を見せた。
中郡聴覚障害者協会の橘川透会長(74)を講師に開かれている町の手話講習会。
参加者十数人の間にすぐさま交じり、持参のテキストを開いて手話での会話を練習し始める。
救急の現場で生かそうと手話を自主的に学ぶ二宮町消防署の署員ら =二宮町民センター
5月にスタートした講習は来年3月まで40回。前日は午前8時から
勤務し、夜に2件あった救急出動のため仮眠の時間はほとんどなかったという。
それでも、第3警備隊の高木孝治隊長(47)は「1人でも多く救えると思えば苦にはならない」
と、合間を見つけては履修を欠かさない。
講習会を受けている署員は9人。うち6人が救急隊に名を連ねるが、既に現場で
役立ったこともある。
習い始めて1カ月後の6月、聴覚障害がある10代の女性の母親から、
娘が急病で倒れたという119番通報があった。幸い女性に意識があり、救急分隊の
大和草平分隊長(38)は手話で自己紹介。
苦しんでいた女性の表情がわずかに緩んだという。
その1カ月後、再び同じ女性が救急搬送されたが、今度大和さんは手話で症状を確認。
救急車の中では、同じく救急分隊の伊藤遙隊員(25)が手話を交えて病院に付き添った。
「一人で救急車に運ばれ不安もあったはず。少しでも和らげられたら、手話を
学んだかいもあった」。大和さんはそう振り返る。
事の始まりは、2月に高木隊長が町主催の要約筆記者の講習を受けたこと。
「障害者について知らないことが多いのに驚いた。災害の現場で必要とする時があるはず」。
署内で手話を習おうと同僚らに呼び掛けたところ、消防隊員36人のうち
4分の1に当たる9人が手を挙げた。
高木隊長が「必要とする時がある」と言うように、聴覚障害者らが
救急搬送時や災害時などに困難に直面するケースは少なくない。
二宮町をはじめ、各自治体はファクスやスマートフォンなどで119番通報
できる仕組みを導入。搬送する際は指さし用のボードを使用したり、紙による
筆談でコミュニケーションを図るのが一般的という。
ただ時間や手間がかかり、意思疎通は容易ではない。
全日本ろうあ連盟によると、東日本大震災では障害者の死亡率は
住民全体の2倍だったといい、情報格差が問題視されている。
聴覚障害の当事者である橘川会長は「(7月の)台風12号の時には
町の広報車も回っていたが、警報などの情報は障害者に届きにくい。
命を守るためにも多くの人にもっと手話が広がってほしい」と期待する。
高木隊長も課題を感じており「救急搬送では手話通訳のボランティアを
呼ぶこともあるが、消防署員で自己完結できるようになればいいし、手話が
通じる人がいれば搬送者の不安を軽減にもつながる」と話す。
今では署内の日常のあいさつでも手話を交えるようになった。
伊藤隊員は「日常会話をできるようにしたい」と意気込み、
高木隊長は「いずれは手話で障害者向けに救命講習を開きたい」と目標を掲げている。
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