西日本豪雨 手話でも助けたい

毎日新聞  2018年7月25日


手話でも助けたい ろうあ連盟、ボランティア


 西日本豪雨で甚大な被害を受けた広島県で、耳が聞こえず手話で会話する

聴覚障害者を、同じ障害がある人が支援する活動が始まった。


 県ろうあ連盟が運営するボランティアセンターが参加希望者を募り

被災者宅に出向いて片付けなどをしている。


 言葉の壁で支援が及んでいない被災者に

「聞こえなくても聞こえても、何かしたい気持ちは同じ」

との思いが届き始めた。


 自宅が床上浸水に見舞われた坂町坂西の生田(おいた)照彦さん(70)方に24日

県内からボランティアの女性3人が集まった。

互いに耳が聞こえない。

聴覚障害者のボランティアスタッフらに、自宅の被災状況を手話で説明する
生田照彦さん(左端)=広島県坂町で2018年7月24日午前10時3分、貝塚太一撮影


 「一度使ったタオルは消毒液の中に戻さないで」。手話での説明に

手のひらで胸をなで下ろす動作で「わかった」と答えた。


  この日、初めてボランティアに参加した宮本明三(あけみ)さん(49)は

「何かしたかったけど、逆に邪魔になってしまうと、今まで踏み出せなかった」と明かす。

「やってみると、作業は本当に少しずつしか進まない」と汗を拭った。


  豪雨の夜、生田さんは雨の音が聞こえなかった。

携帯電話にメールで入る避難情報を気にかけてはいたが、7日午前5時ごろ

気がつくと自宅前の道路は川のようになっていた。

近くに住む兄に避難を促され、膝まである水の中、妻功(のり)子さん(68)を

支えながら高台の保育所まで歩いた。


 水が引いた9日、見にいくと、45年暮らした家が80センチほどの

土砂に埋まっていた。「もうだめや」。

避難所では会話ができるのは夫婦2人きり。


 生活支援情報を伝える防災無線は聞こえない。そんな中

連盟から派遣された手話通訳者が頼りになった。

「きれいにすれば、気分も変わるかもしれん」と家の片付けを始めることにした。


  県ろうあ連盟によると、連盟の会員は県内に約700人おり

そのうち坂町と三原市で計3世帯が浸水被害に遭った。

豪雨被害の実態が明らかになるのと同時に

会員から「ボランティアをしたい」とメールが届くように。


 だが、一般のボランティアセンターでは言葉の壁がある。

連盟は18日からソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)で

ボランティアの希望者を募り

手話通訳者も同行させて現場に送ることにした。


 24日、手話で会話しながら片付け作業を進める坂町の生田さん宅。

ボランティアが床下を消毒する間に生田さんは庭の土砂をかき出していた。


 同行した手話通訳者が、一度は土をかぶったアジサイから

緑の芽が出ているのを見つけて指さすと、生田さんの顔がほころんだ。

「もう捨てようと思ったけど、元気やね。慌てず、頑張ろうと思う」


  週末の21、22の両日には、坂町の別の被災者宅に県内外から

計53人の聴覚障害者や手話ができる人が集まった。


 連盟の横村恭子さん(60)は「困ったことがあったら障害の

有無にかかわらず助け合うのが当たり前」と支援の思いを強くする。

今後は、相手の障害のあるなしにかかわらずボランティアを派遣し

支援の輪を広げていく。

【蒲原明佳】

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