YOMIURI ONLIN yomiDr. 2018年7月6日
「見えない」「聞こえない」「話せない」を体験
障害を超えたコミュニケーションを創り出そう!
今月5日、夜の渋谷。目と口に黒マスクをした男女が互いを探り合うという
一見怪しげな光景が繰り広げられた。
ここはイベントスペース「100BANCH」。35歳未満の若い世代による
新しい価値の創造を支援する目的で、2017年に設けられた空間だ。
斬新なプロジェクトが種々行われているが、この日のイベントのタイトルは「未来の言語」。
様々なコミュニケーション上の障害があったり、育った言語圏が違っていたりしても
互いの意思を伝え合える新しい手段はないのか。それを考えることをテーマとしている。
「言語そのものがバリアになっている」との問題意識
冒頭、主催側から「音声や文字には大きな壁がある。手話や点字を使う人は
障害者と位置づけられ、言語そのものがバリアになっているのではないか」と問題提起。
点字とアルファベットやカタカナが一体となったユニバーサルな書体を考案した
デザイナーの高橋鴻介さんなど、4人のプロジェクト代表者が壇上でスピーチした。
ワークショップでは、参加者それぞれに「みえない」「きこえない」「はなせない」を体験
続いて行われたのがメインイベントのワークショップ。初対面の人たちがグループを作り
カードを引くと、それは「みえない」「きこえない」「はなせない」の3種類だった。
黒マスクはここで登場。「みえない」を引いた人は目にマスク
「はなせない」の人は口に、「きこえない」の人には大音量が流れるイヤホンが渡された。
高橋さんが考案したユニバーサルな書体。点字とアルファベットやカタカナを融合させた
相手に伝わっているか不安な「きこえない」
イヤホンをすると課題が与えられた。自己紹介やしりとりなど
最初は簡単なものだが、音が聞こえないと、何かの始まりや終わりのタイミングが分からない。
「はなせない」役で口にマスクをした人が、身ぶりで教えてくれるのを頼りに話し出す。
しかし、相手がはっきりと態度で示してくれないと
自分の声が聞こえているか分からない。不安で自然と声が大きくなっていた。
最初に引いたのは「きこえない」のカード
この状況では、見えていて話せる人の役割は意外に多い。「はなせない」の人が
筆談をすると自分には分かるが、「みえない」の人には伝わらない。
そこを解決できるのは自分だけだと気付く。誰がどう書いたのか
そのたびに読んで伝える必要があったのだ。
ジェスチャーに必死 恥ずかしさも飛んで行く!
次に「はなせない」のカードを引く。ここから筆談が禁止に。口に黒マスクをし
ひたすらジェスチャーで「きこえない」の人に伝える。「きこえない」の人は
それを「みえない」の人に声で伝える。
なかなか伝わらないし、妥協して伝えやすい内容に変えてしまったり。
伝えられないもどかしさは、気恥ずかしさも吹き飛ばしてしまう。
人にとって、「伝える」ということがどんなに大事なことだったのか。
必死になっている自分に教えられる。
最後は、「みえない」「きこえない」「はなせない」の全てを課された人同士の伝達。
「辛いカレーを食べる」という文章を、体に触れることを通していかに伝えるかだ。
事前の作戦会議では「辛い」を表現するために、のどを触ることを考えたが
うまくいかなかった。ここで、伝える側の女性がファインプレーを演じる。
手を持ってぱたぱた顔をあおぐ動作で、「辛い」はバッチリ伝わった
(ただし、カレーはおにぎりに……)。
目と口にマスク、耳に大音量のイヤホンをした2人のコミュニケーション。
ここから「未来言語」が始まるのか……
助け合ってバリアを破る その先に「未来言語」が…?
ワークショップで気付いたのは、「分かった」「分からない」を相手に
はっきり分かる形で表現しないと、やりとりが完結しないこと。
「辛い」を伝えるのに顔をあおぐような、生活の中でのちょっとした想像力が試されること。
そして、伝えられない孤独を、助け合って打ち破ったあとに残る仲間意識だ。
言語のバリアは、心のバリアと表裏であることを実感。
こんな素朴な発見の中に、誰しも隔てない「未来言語」につながる糸口があるのだろうか。
この日の活動は、グラフィックレコーディングで記録
脳をフル回転させた後に歩く渋谷は夜風も心地よく
ほろ酔いのような足取りで帰路についた。
夢は大きい「未来言語」。
次回は、8月18日に開催される。
問い合わせは「100BANCH」ホームページの専用フォームで。
(梅崎正直 ヨミドクター副編集長)
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