毎日新聞2018年6月2日 東京夕刊
NHK技研
番組制作、AIを活用 最新技術公開 スポーツ中継に手話CGも
NHK放送技術研究所(東京都世田谷区)が研究段階の放送技術を年1回、お披露目する「技研公開」が5月に開かれた。人工知能(AI)を使い番組制作の効率化を図ったり、ハンディキャップを抱える人々も視聴しやすい放送を実現したりと、さまざまな新技術でテレビを巡る将来像が示された。【井上知大】
●音声認識技術を活用
技研は、AIによる音声認識技術を使って取材映像の内容を文字に起こすシステムを研究している。NHKは、大量の取材映像の内容を文字にした上で、映像の編集や事実確認に役立てている。以前は人間が聞きながら書き起こしていたため膨大な時間がかかったが、近年は取材映像の音声をシステムがリアルタイムに変換できるようになりつつある。技研は、多様な発話環境や収録条件に対応できるよう、過去の番組約3000時間分やインタビューなどの取材映像約1500時間分の音声と、書き起こしたテキストをAIに学習させ、変換精度を高めた。
文字起こしの修正作業の効率化にも力を入れる。音声認識技術はまだ完全ではなく、記者会見や街頭インタビューなどの文字起こしは、人間の手による修正作業が必要だ。今回の展示では、複数の制作部署で同じ取材映像を使用する際、映像と文字に起こしたテキストを局内ネットワークで共有し、ある部署での修正が随時反映される仕組みを紹介。こうした技術で、迅速な番組制作を支援し、現場の働き方改革にも生かしたい考えだ。
●パターンを用意して
聴覚にハンディキャップを持つ人もスポーツ番組を楽しめるよう、競技データなどの日本語を手話に翻訳し、コンピューターグラフィックス(CG)で表現する技術も展示された。
スポーツ情報の手話CG制作システムを紹介するコーナー=東京都世田谷区で
先天的に聴覚に障害がある人は、日本語よりも先に手話を習得するため、日本語が母語ではないという感覚の人もいる。彼らはテレビの字幕のスピードは速いと感じるため、手話放送と字幕はそれぞれにニーズがあるという。
今回の「手話CG制作システム」は、手話の語順が日本語と異なるため、スポーツ中継でよく使う表現パターンを事前に用意。試合ごとに異なる選手名や得点に該当する部分だけを穴開き状態にしたテンプレートを作っておき、試合の進行に合わせて穴埋めする仕組みだ。こうしたデータを、人間の手話の動きを収録した「モーションキャプチャー」と連動。スポーツ中継などの情報をいち早く手話で伝えられるようになったという。
技研によると、手話通訳者の人数は少なく、24時間対応できる環境にはない。担当者は「同時通訳という行為を体を使って表現するので、1人が通訳できるのは連続で15分が限界と言われている。技術の進歩で通訳者の負担を減らし、障害の有無にかかわらず常時正しい情報を入手できる環境を作っていきたい」と話す。
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