聴覚障害の大学教授ら、100語分を作成中
各地で異なる手話の「方言」を動画で集め、都道府県ごとにデータベース化するプロジェクトが進んでいる。100の単語を選び、地域や世代ごとの手話表現をインターネット上で公開。地域で発展した手話を記録して後世に残すとともに、通訳者の養成現場などでの活用も目指す。【山口桂子】
「タマネギ」の手話表現
「日本手話話し言葉コーパスプロジェクト」として2012年に始まった。「コーパス」は言語情報を大規模に集めた全集を指す。取り組むのは、生まれつき耳の聞こえない大杉豊・筑波技術大教授(手話言語学)を中心とするチームだ。
各地の聴覚障害者協会などに呼びかけ、日常生活でよく使う単語を、ろう者に手話で表現してもらっている。例えば「タマネギ」の場合、地域によって形で表す人と切った際に涙が出る仕草をする人などがおり、年代別でも表現は異なる。また、「地域自慢」や「カレーの作り方」といったテーマごとの対話も手話で集めている。
これまでに茨城、群馬、富山、石川、奈良、福岡、長崎の7県分を完成させ、ウェブサイトで公開した。大杉教授は「手話は地域や世代でこんなに違うということを知ってほしい。手話を生きた言語として見直すきっかけにもなる」と意義を強調する。
手話で打ち合わせをする大杉豊さん(右)と坊農真弓さん
=東京都千代田区で、山口桂子撮影
手話のデータベース化は英、仏、オーストラリアなど海外でも進んでおり、比較もできるようになる。チームの一員で国立情報学研究所(東京都)の坊農(ぼうのう)真弓准教授(会話分析)は「日本の手話は口を動かす割合が高い。これは言葉を発声する口話教育が推進され、学校などで手話が事実上禁じられた過去の影響」と分析する。
一方、表現の違いは災害をはじめ緊急時の意思疎通などで課題にもなるため、全国共通の「標準手話」の作成も進んでいる。
全日本ろうあ連盟(東京都)の久松三二(みつじ)事務局長は「ろう者にとって地域で使われる手話への思いは強く、各地の手話を一覧にしたのは画期的。(全国で通じる)標準的な手話と、地域の手話の共存が大切」と評価する。
毎日新聞2018年3月25日 大阪朝刊
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